知らないふりをして
「よお、準備できたか?」
僕の部屋にはそろそろ鍵をかけようと思う。
「おじさんは暇なの?」
いつもの笑顔を浮かべられ、僕は何も言えなくなった。
車内で僕は何も言えなかった。対照的におじさんはやたら陽気だ。
「お前はバンドを続けろよ。友達もできる」
「うん」
「今からそれだけ弾けたら、大学生になっても重宝される。青春時代は安泰だ。ただ、俺もそうだったが大学生がやるロック・バンドっていうのはどうも格好がつかない」
「何で」
「アクセル・ローズは不良の匂いがするから色気があるだろう?それが出ないんだよ」
おじさんが大学生の頃、何も知らずに音楽をやっていたと思うとやりきれなかった。いつ悲しい運命を知ったのだろうか。そして、何を思ったのだろうか。
「なあ、ルイ。俺の病気のこと、聞いただろう?」
ためらったが正直にこたえた。
「うん、早死にするって」
「お前の声が変わる前に、俺のためにノッキン・ノン・ヘブンスドアを歌ってくれよ」
僕を変えた曲だ。
「お前に音楽を託せたと思うと、生きてきた証が残る気がするからな」
「押し付けるのはよくないよ」
「大人はそういうもんだ」
「僕はどうしたらいいの!」
おじさんが悲し気につぶやく。
「忘れるんだよ」
僕は嗚咽した。
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