発作

いつものように僕は折りたたみ椅子に座らせられている。ソファは相変わらず年功序列で三人のものだ。僕たちはハード・ロックとグランジ、それぞれの良さについて語り合っている。煙で満たされた空間には、おだやかな時間が流れていた。しかしおじさんのつぶやきが、僕たちのおだやかな空気を凍らせる。

「やっぱり小学生と中学生が付き合うのはむずかしいか」

しばらく三人は黙り、ケイ君が呆れた口調で返す。

「俺らも配慮してるんだよ」

おじさんがいつもの笑顔を浮かべ、三人は弛緩する。


しかしその時、おじさんが胸を押さえて呻き始めた。僕たちが顔をあげると、苦しそうに机の引き出しを開け、薬を取り出している。薬を口に放り込み、顔色を変えて僕たちに言う。

「出てけ。しばらく入ってくるな」


僕たちは由季ちゃんのところへ急いだ。由季ちゃんに聞いても何も答えてくれない。僕たちは家を後にし、楽器屋に向かった。


楽器屋の店員さんに事情を話すと、まずケイ君が詰め寄った。

「何だよ、あれ。普通の苦しみ方じゃないぜ?」

店員さんはしばらく困った顔をしたが、ケイ君は引かない。諦めた店員さんは、真剣な表情をして語り始めた。

「あいつは、近々死ぬんだよ。いつかは分からないが、早死にするんだ」

「癌か?煙草か?」

「いや、家族性高コレステロール血症といって、早死にの遺伝だ。見つかるのが遅かったからな。三十歳から五十歳の間に死ぬと言われているそうだが、もう四十だからなあ」

僕は愕然とした。おじさんが死ぬ。

「何で黙ってるの?」

「美学なんだろう」

僕たちは何も言えなかった。


 おじさん

 自分勝手な美学は格好良くないよ

 どこで泣けばいいんだよ


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