ステージ
楽器屋さんの近所には小さなライブハウスがある。僕たちはその前室にいる。メンバーだけでなく、おじさんも。ケイ君は毒づく。
「なんでお前がいるんだよ」
「保護者だからな。夜間の外出には付き添うことになっている。それに思い出の場所にいて何が悪い」
僕が緊張している中、辻褄のあっていない会話が続いている。何度もチューニングを確認し、歌詞を見直した。前室に入る前、瑞穂に応援された。凛の顔はいつも通りに見えたが、僕に向けた目はいくらか優しげだった気がする。そうあってほしいと思っているだけかもしれないけれど。とにかく彼女もいるということは確かだ。
「チビ、いくぞ」
前室を出た僕たちはステージの階段を昇った。
真ん中のマイクスタンドの前に立つ。客席は狭い。そしてガラガラだ。全てのミュージシャンが、この景色からロック・スターへの階段を昇って行ったのだろう。僕たちの客はケイ君たちの知り合い、おじさん、瑞穂と凛だけだ。
セッティングが終わると、冷やかしの声が飛んでくる。
「ケイ!園児がいるぜ!」
「子供と遊んでるのか?」
消え入りたい。僕がそう思っていると、ケイ君の顔色が変わった。
「うるせぇ!歌声聴いてからいえ!おいルイ!黙らせてやれ!」
後ろからドラムのカウントが聞こえる。ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル。普通の人間にこの高音はでない。
僕は夢中で歌った。チビと呼ばなかったケイ君のために、僕を音楽の世界に引きずり込んだおじさんのために、そして凛のために。曲が終わった後には、歓声も冷やかしの声もなかった。
そして、静寂と爆音のライブは終わった。
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