エンジェル
おじさんの部屋では三人がぷかぷかと煙草を吸っている。僕はためらったが、ケイ君に話すことにした。
「ケイ君、瑞穂とどうやって恋人になったの?」
ケイ君がむせていると、二人がこたえる。
「こいつは瑞穂にCDを貸し続けたんだよ」
「ラブソングばかりな。さすがに瑞穂が気付いて結ばれたんだ」
ケイ君が二人の頭を殴り終えたところで、答えがわかった。
スタジオを出ると、無表情に凛から水を渡された。僕は凛に一枚のCDを渡した。
「エアロスミスっていう人たちなんだ。エンジェルっていう曲がすごくいいから、聴いてみてくれない?」
「私があなたのエンジェルなの?」
言葉が出ない。凛は瑞穂の友達だ。しかし、凛は初めて笑った。少し呆れているけれど。
「うん。駄目かな」
凛は僕の頭に手をのせて言う。
「少し小さい。駄目だね」
一度優し気な顔を見せ、彼女は帰っていった。
みんなが帰ったあと、僕はぽつんと楽器屋の前に立っていた。店員さんとの話が終わったおじさんは僕に気付き、優しく頭を撫でる
「初恋っていうのは儚いからな」
「見てたの?」
「涙目じゃないか」
おじさんは声を上げて笑い始めた。こんなひどい大人は見たことがない。
「どうしたらいいかな?」
「格好良い男になればいい」
「どんな風に?」
「歌えよ。アクセル・ローズみたいに」
おじさんが一呼吸おいて続ける。
「ステージの上で華やかな男っていうのは、男も女も魅了するんだ。サイズは関係ない」
信頼できる人もいない僕は、この人を信じる他はない。歌で求愛するなんて鳥みたいだが、由季ちゃんみたいな美人と結婚しているんだ。信じてみよう。
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