自傷

 来る日も来る日も、僕は初恋が成就することを祈りながら、スタジオにやってくる凛を眺めていた。小学生の気持ちなんて中学生にはお見通しらしい。練習の終わりに、瑞穂は凛にペットボトルを手渡した。

「ちゃんと小さなボーカルを可愛がらないとだめだよ。これ渡してあげて」

凛は無表情で僕に水を差し出した。


 僕はその左腕の手首に傷跡を見つけた。かなり深く怪我をしているようだ。そしてその怪我は、悲しみと絶望を物語っている。僕だって傷の意味くらい知っている。

「凛、それ」

凛は表情を変えない。

「水だよ。どうしたの?」

「なんでもない。ありがとう」


 僕は帰り道に、おじさんに相談した。おじさんは何ということもないようにこたえる。

「寂しいだけだよ。そういう女は多い」

「どうしたらいいの?」

「お前が孤独を埋めてやれよ」

小学生に何ができるんだろうか。結局おじさんは何も教えてくれないと思っていると、言葉が付け足された。

「好きになったなら、好きだと言えばいい。まあ若い恋愛はよく分からないから、三人組に相談してみろよ」

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