僕とおじさんは、楽器屋の店長さんに挨拶をして、スタジオへの階段を降りた。重たいドアを開けると、ケイ君の中学校の制服を着た女の人が二人、スタジオの椅子に座っていた。おじさんがため息をつく。

「パクられると言っただろう?」

誰もその言葉にこたえないでいると、女の人の一人が近づいてきて、僕に話しかけた。

「君がルイ君?わたし瑞穂。小さいね。可愛いボーカル。瑞穂って呼んでね」

彼女が笑っているのを意にも介さず、もう一人の女の人は化粧を直している。


 大きな目に塗りすぎたマスカラとアイライン。

 とても悲しげだった。

 だけどその目に、僕は惹きつけられたんだ。


胸が高鳴っているが、その理由が分からない。僕は言葉につまりながら、瑞穂に挨拶をした。

「凛、ちゃんと挨拶しないと。子供が怖がるよ」

凛と呼ばれた女の人が呆れている。

「私は子供嫌い」

瑞穂は優し気に僕を慰める。

「あの子は凛。凛って呼んでいいから。私はケイの彼女で」

おじさんが割って入る。

「女連れは感心しないな。ケイ、いいところを見せたいのか?」

「チビを見たいってきかないんだよ」

「女はうちに入れないからな」

照れくさそうなケイ君を初めて見た。

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