パラダイス・シティ

おじさんの家で三人は、煙草を吸いながら女の子の話をしている。

「男が五人ってもうやめようぜ」

「瑞穂も連れて来いよ」

不満の矛先はケイ君に向かっている。苦情が出ているようだ。すると珍しくおじさんが叱り始める。

「女子中学生は困る。不純異性交遊だ。お前らがパクられてもバンドが消えるだけだが、俺がパクられたら新聞に載るんだぜ?」

どうやら保身らしい。ケイ君が話題を変える。

「おい、チビ!ガンズでやりたい曲、好きな曲を言えよ」

「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル、スイート・チャイルド・オー・マイン。あとはヘブンスドアかな?」

ケイ君が僕を睨む。

「ライブにはもう一曲くらいいるだろ?」

僕は考え込んだ。だけどケイ君には見透かされていた。

「パラダイス・シティを挙げないのは何でだ?」

スラッシュが本気を出している曲の一つ。仕事をするおじさんのキーボードを打つ音が響く。僕が言葉に詰まった証拠だ。ケイ君は口の端をゆがめて言う。もちろん攻撃的に。

「お前、舐めてるよな?」

「だってあの曲、難しいよ?」

「俺が何弾いたか覚えてないのか?」

ミスター・ビッグ。おじさんも認めた腕だ。

「弾いてくれる?」

おじさんのキーボードを打つ音が響く。ケイ君の表情がだんだん柔らかくなる。了承されたということだろう。僕が胸を撫でおろしていると、おじさんの仕事は終わった。ヘッドホンを外し、煙草に火を着けている。


「ルイ、どうした?いじめられたか?」

「曲が、決まったんだ」

僕はおじさんに課題曲を告げた。おじさんはケイ君に向かって笑いかけている。なぜかケイ君は目を逸らした

「自信があるようだな」

ケイ君の頭を撫でようとした手は振り払われた。

「頭撫でられる中学生がいるかよ」

おじさんは呑気に頷いている。代わりに僕の頭が撫でられた。

「最後にルイをボーカルらしくしないとな」

僕はおじさんを見上げると、おじさんがニヤけながら指示する。

「ケイ、ブリーチ買ってこい」

ケイ君が口の端を歪めた。

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