スラッシュ

それから僕たちは頻繁におじさんの家で顔を合わせた。おじさんが仕事をしている部屋のソファに三人は座り、僕だけ折りたたみ椅子だ。ケイ君が言うには「年功序列」らしい。自分だって言葉をたくさん知っている訳じゃないのに、便利な言葉は見つけてくるようだ。三人は気にせず煙草をぷかぷか吸っている。

「クソガキ、お前は何が好きなんだ?」

「そのクソガキってやめてよ」

ケイ君は二人の顔を見た。

「わかったよ、チビ」

僕は「クソガキ」から「チビ」に昇格した。


 おじさんは僕たちを気にもとめず、ヘッドホンから爆音を耳に叩き込みながらPCに向かっている。ケイ君は僕にたずねる。最初に僕に話しかけるのはいつもケイ君だ。

「チビ、お前は何が好きかって聞いたんだ。早く答えろ」

「ガンズ・アンド・ローゼズが好きだよ。ケイ君は?」

ケイ君は少し嬉しそうだ。

「マイケル・シェンカーだ。スコーピオンズの頃の」

「ハリケーン?」

「ああ。ハゲてる以外はいいバンドだ」

僕は初めてケイ君の前で心から笑った。ケイ君はなぜかバツが悪そうだ。

「ガンズ・アンド・ローゼズ。悪くないな。スラッシュは本気を出している曲があれば、余裕をかましてる曲もある。チビ、やってみるか?」


ケイ君も子供なのかもしれない。僕にはケイ君がスラッシュになりたがっているのが分かる。それでもケイ君は偽悪的に振舞う。


「スラッシュなら余裕だな」


「本当は憧れているくせに」

面倒だから僕はその言葉を飲み込んだ。

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