サイド・ギター
僕は週に一度程度おじさんとスタジオに行き、ギターとボーカルの練習をした。どの音域は体のどの部分に響かせるか、子音はどのように発音するかなど、意外とおじさんは細かい。プロとか未来のことは何も考えなかったけれど、日々上達していくと夢中になってしまう。気が付けば癇癪もなくなっていた。
母親は「大変」おじさんに感謝しているらしい。僕が良い子になり、芸術に夢中だからだ。ただそれを壊そうとしているのは、他ならぬおじさんのようだ。
「バッキングだけなら、ガキのバンドに入ってもいいレベルだ。探してやるよ」
スタジオでおじさんが言ったセリフだ。練習が終わると一人で髭の店員さんのところに行ってしまった。僕がたどり着くと、おじさんの溜息が聞こえる。
「メンバー募集さえネットなのか?」
髭の店員さんも溜息をつく。
「仕方ないよ。時代は変わる。俺たちもビートルズやってるバンド見るとムカついて仕方なかっただろう?」
「俺たちがビートルズなのかよ」
「ああ、PCが使えるビートルズだ」
落胆しているおじさんの肩を店員さんが叩く。
「まあ、ガキもあまりにタチが悪いとメンバーは集まらないようだがな」
おじさんは店員さんを見上げた。
「そんなガキどもいないか?紹介してくれよ」
「別にいいけど、お前またやるのか?」
おじさんは僕に向かって顎をしゃくる。
「サイド・ギター募集してるバンドだ。ジャンルはハード・ロックだ」
「その子入れるのか?タチが悪いって言っただろう?」
「いいんだよ。俺が付き添うから」
店員さんは躊躇していたが、秘密のように話しかけた。おじさんとは特別な仲らしい。
「いいリード・ギターのガキがいる中学生なら知ってるよ。どちらかというとテクニック編中のバンドだ。悪くないんじゃないか?まあ、素行は悪いが」
「まともなヤツがやってるロック・バンドほど無様なものはないだろう?俺たちが、格好悪かった理由だ」
僕は「あんたがまともか?」という疑問をぬぐえずにいた。ただ歌った後のおじさんの顔を思うと、僕が口を出す余地はない。
「また来るから、話しておいてくれ。LINEだの使わずに、ガキどもが来たときに伝えるんだ」
「お前も仕事でPC使ってるじゃないか」
「おもむきが大事なんだよ」
店員さんは髭をもてあそびながら僕を見る。
「面倒なヤツにつかまったね」
僕は「まったくだ」という気持ちを込めて頷いた。
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