ノッキン・ノン・ヘブンスドア
母親は由季ちゃんと、思い出話から現実話まで、とにかく一貫性のない話題で盛り上がっている。おじさんが煙草を取り出すと、由季ちゃんが叱る。
「人様の家だよ。車で吸ってきて」
おじさんは一度溜息をつき、僕に声をかけた。
「ルイ、退屈してるならお前も来るか?」
由季ちゃんは呆れた顔をしているが母親はお構いなしだ。
「りゅーくんに大人しくするように叱ってもらってきなさい」
僕は煙草の匂いを想像した。狭い車内にあの匂いがこもると思うとうんざりする。しかしおじさんはそんな僕を残して、玄関から出て行ってしまった。
「ほったらかしにしないでよ。誘ったのはおじさんじゃないか」
僕がいう暇もなく、玄関の外からはエンジンがかかる音がした。
外に出ると丸っこい不思議な形の車が止まっていた。少し開いた窓からは早速煙が漏れている。僕は一度溜息をつき、ドアを開けた。
車内は住宅街には相応しくない爆音と、煙草の煙が充満していた。僕が耳を抑えると、おじさんはボリュームを落とした。
「音楽は聴かないのか?」
僕は首を左右に振った。
「悪いもんじゃない。聞いてみるか?」
ドアを閉めた僕におじさんが問いかける。僕は興味を持てなかったが、「うん」以外の回答は求められていないようだった。
優し気なイントロが響いた。
そして、よくわからないが突然音が激しくなった。
僕はその時確かに感じたんだ。
胸を撃ち抜かれる。
そんな感覚だ。
一曲目が終わるころには僕は陶酔していた。おじさんにたずねる。
「今の何?」
おじさんはまた、あの笑顔で笑った。
「ガンズ・アンド・ローゼズだ。ノッキン・ノン・ヘブンスドアって曲で、ボブ・ディランのカバーだな。原曲をカバーが越えることは稀だが、この曲はそんな稀な一曲だ」
僕がよくわからないままに話を聞いていると、おじさんが問いかけた。
「気に入ったか?」
今度ははっきりと、首を縦に振った。
「今度遊びに来いよ」
僕はおじさんの前で初めて笑顔を見せていた。
「うん」
やっと心から返事ができた。
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