おじさんと由季ちゃん
ある日、朝から慌ただしく母親が部屋を片付けていた。僕は母親にたずねた。
「何でそんなに掃除してるの?」
母親は久しぶりに満面の笑顔を見せた。
「今日はね、由季ちゃんっていうママの同級生が来てくれるから」
それを聞いた僕は、久しぶりの来客に心が躍った。おもちゃ箱に向かい、自慢したいおもちゃや、一緒に遊びたいゲームを選んだ。そして午前十一時頃、ドアのチャイムが鳴った。
由季ちゃんは目鼻立ちのはっきりした綺麗な人だった。旦那さんは肩まで伸ばした髪を鬱陶しそうに振り払い、サングラスを外した。髭と長髪は、昔のヒッピーとかいう人たちに似ている。僕を見ると二人は優しく笑った。二人の顔は何となく似ている。旦那さんが僕に話しかけた。
「ルイ君、初めましてだな。りゅーくんと由季ちゃんだ」
僕は大きな声で、「こんにちは」といった。二人は満足そうに笑い、僕の頭を撫でる。僕は自分の両親がこんな人たちだったらどれほど幸せだっただろうかと思った。
「まあ、俺のことはおじさんでいいよ」
おじさんと名乗るりゅーくんは笑った。この人が笑えば全ての人の心を溶かすんじゃないかと思うような不思議な笑顔だ。僕はおじさんになら何でも話せる気がした。
リビングに二人は通され、ダイニング・テーブルに座った。僕はゲームを取り出したが、二人は見向きもしない。母親と話が進んでいる。
「琉生が癇癪持ちで、学校で大変で」
僕は居心地が急に悪くなったが、おじさんは言った。
「ケンカしちゃダメな理由なんてないんですよ。道具を使ったのが良くないくらいで」
おじさんは僕に言った。
「自分より強い子とだけケンカするんだ。弱いもの虐めは格好悪いからな。そして道具はだめだ。男の子は素手でケンカするのが美学なんだ」
おじさんはまた笑顔で僕に言った。僕はたずねた。
「美学って何?」
「格好良いってことだ。どう振舞えば格好良いか、それが大事なんだよ」
それだけ言うと母親に話し始めた。
「ケンカしちゃダメな理由なんてないんですよ。それを縛ることができるのは法律だけだけど、子供の世界には法律なんて及んでない。子供の世界は野生なんです。野生の中で生き残るためには、暴力だって必要だと僕は思いますよ」
母親が問いかけた。
「琉生は生きるために暴力を振るったってこと?」
「そういうことです」
それからおじさんは母親に笑いかけた。彼女の肩から力が抜けたことが僕にも分かった。そしておじさんは僕の頭に手を乗せて言った。
「一人で戦ったんだもんな。褒められていいくらいだ」
僕は初めて救われたような気分になった。
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