第10話 試食
「これなんかどうかな?」
調理場に入ったリオンさんは棚から幾つか箱を取り出すと、テーブルの上に並べた。
そして蓋を開けて中身を見せていく。
「頂きにゃーす」
「ちょっと待て!」
「にゃ?」
「いきなり食べてどうすんだ、ちゃんと説明して貰ってからだ」
「にゃー」
「すいませんリオンさん。お願いします」
「いえいえ。ではまずこれですが・・」
リオンさんはリルが食べようとした食材を改めて見せる。
「これはリトュフという茸です。肉や麺類に合わせて食べます。数が希少で中々手に入らない高級品です」
「へえー・・あんまり美味しくは無さそうだけど」
その茸はまるでジャガイモ・・もしくは馬の糞のようだった。
「美味しいですよ!卵に合わせたりすると絶品です」
「よし。頂きますにゃ!」
「よしじゃない!全部終わってから!」
「まだかにゃあ・・・」
「つ、次はこれです」
リオンさんはそういって次の箱を開けた。
「これは雷鳥という鳥です。そのお肉には様々な効能があります」
その箱には兎ほどの鳥が入っていた。
「動き事態はあまり素早くないので、見つければ捕まえやすいですね」
「雷鳥。こっちのが美味しそうだな」
「にゃあ!」
「それがこの鳥のお肉はどう料理しても美味しくはならないんですよ。苦くて。まあ、良薬は口に苦し!ですね」
「にゃんて?」
「りょ、良薬は・・」
「い、いいですよ、言い直さなくて。これで2つですね。他にもありますか?」
「あ・・はい。これが最後です」
リオンさんはそう言って、小さな箱の包みを開けた。そこには萎びて赤ずんだ、木の実の様な物が入っていた。
「なんだこれ・・・」
「これはトリジンと呼ばれる貴重な木の実です。その中でもこのように赤いトリジンは、特に赤トリジンと呼ばれます」
「にゃはは。そんままにゃ」
「リル黙ってろ。これも高級食材なんですか?」
「はい。トリジンは薬になるんです」
「薬?」
「内臓の病気や流行病にこれを煎じて飲めば良く効くんですよ」
「へぇ・・けっこう何処にでもありそうな見た目ですけど」
「それが中々見つからなくて。それは先にお見せした他の2つもそうなんですけど」
「ですよね・・」
簡単に見つかるなら高級な筈はないからな。しかし難しいと行っても、ワームに比べれば危険度は低いはず。
「実はこの3つの食材は北のベネビス山で取れるんです。でも取れるかどうかは運の要素がとても大きくて。狙ってどうにかなるような物ではないのです。でも今回はリルさんの嗅覚なら・・」
「成程。リル・・ほんとに大丈夫だろうな?」
「任せろにゃ!そして食わせろにゃあ!」
「こいつ・・!」
「じゃ、じゃあ料理しますね!凝った物よりは、なるべく味が分かるように」
「すいません・・ほんとに」
「いえいえ。じゃあ先程の部屋でお待ち下さい」
リオンさんに笑顔で促され、俺とリルは部屋に戻る。
「早く食べたいにゃー。どんな味かにゃ-」
「あんまり美味しそうな感じじゃなかったけどな」
「あのコックならきっと美味しくしてくれるにゃ!」
「まぁ・・。しかし俺もお前も世話になりっぱなしだな。ちゃんとお返ししないとだぞ」
「にゃー」
「ベネビス山だっけ。どんな山か知ってるか?」
「わかんにゃい」
「どのくらいで着く?」
「わかんにゃい」
「何にも知らないのか・・・先が思いやられる」
「まぁ何とかにゃるにゃー。今度は最初から2人だにゃ!」
リルは楽しそうに言う。まあ楽天的というか、細かい事は気にしないタイプなんだろう。まだ幼いだけかもしれないが。しかし今回はリルの鼻が頼りだ。
鼻・・鼻?
「おいリル」
「にゃ?」
「匂いを辿るなら別に食べなくてもいいんじゃないか?」
「・・・」
「おい」
「あ、味も知ってた方がいいにゃ!」
「いや、今回は見つけても食べたらダメなんだぞ?持って帰ってこないといけないんだから」
「そんにゃ・・」
「お前な・・ちょっとリオンさんの料理を止めてくる」
「ダメにゃあ!せっかくのごちそうにゃ!」
部屋から出ようとする俺にリルはしがみつく。
「アホッ!自分で見つけて食べればいいだろうが!」
「さっき見つけても食べたらダメって言ったにゃあ!」
「沢山見つけたら少しは食って良いから!離せ!」
「今食べたいにゃあ!」
「ダメだ!リオンさんにこれ以上迷惑を
「あら?どうしたんですか?」
残念ながら、言い争っている間に手早く料理を済ませたリオンさんが部屋に戻ってきた。
「い、いや・・」
「あ!さっきのお肉にゃ!茸も!」
俺にしがみついていたリルは瞬間移動したような早さでリオンさんの前に移動する。
「はい。軽く塩を振って炙ってきました。下味は付けていたので、今度は薄味じゃないと思いますよ」
リオンさんはそう言って料理の載った皿をリルに差し出す。
「頂きますにゃ!」
「はい。どうぞ」
「うみゃい!この茸うみゃいにゃ!」
(あんまりバクバク食べるなよ・・)
俺はいい加減申し訳なさでリルの頭をひっぱたきたい衝動に駆られる。
「でしょう!お客様からもよく注文されるんです。でも中々在庫が無くて」
「この肉もいけるにゃあ!苦みもそんにゃににゃいにゃ」
(にゃいにゃいうるせえ!)
「ほんとですか!?よかったあ」
「ご主人様も食べてみるにゃ?」
「えっ?いや、俺は」
「良かったら食べてみて下さい」
リオンさんは皿を差し出す。
「じゃ、じゃあ」
俺は軽く頭を下げてひとつまみ茸を取り、口に運んだ。
ここまできたらもうどっちにしても共犯だ・・
「どうですか?」
「美味い・・」
「でしょう!」
「にゃはは。この茸を沢山見つけるにゃあ!」
「期待していますね!」
「任せろにゃ!」
盛り上がった2人を横目に俺は不安に苛まれていた。
これでホントに食料を調達出来なかったらどうしよう・・・リオンさんに嫌われてしまう。
「ヤマトさん。大丈夫。きっと見つかります」
そんな俺の心中を察したのか、リオンさんは俺に優しい言葉を掛けてくれる。
うーん。ヤバい。だんだんリオンさんの事が女神に見えてきた。
こっちの世界に女神がいるならきっとリオンさんに違いない。
「あ、それとこれを」
「ん?なんですか?」
リオンさんは俺に小さな袋を手渡した。
「先程のトリジンから作った薬です。念のため持って行って下さい」
「ええっ!?これ高いんでしょう!ダメですよこんな・・」
「いいんです。その代わり、例え見つからなくてもちゃんと戻ってきて下さいね?」
「・・・はい!」
俺は渡された小袋を握りしめる。
「よし!お腹いっぱいになったしそろそろ行くにゃ!」
「あっ、リルさん」
「にゃ?」
「リルさんはよかったらこれを使って下さい」
リオンさんはそう言うと、今度は可愛らしい帽子を取り出した。
「帽子?」
「はい。オルガは珍しいので、売るために捕まえようとする人がいるかもしれません。なのでこれで耳を隠してた方がいいですよ」
「へぇ・・」
さすがリオンさん。
「いらにゃい」
「「えっ?!」」
「なんでだよリル?捕まったら大変だろ」
「俺は誇り高いオルガにゃ!耳を隠すなんてしにゃい」
「で、でもリルさん・・」
「リル、帽子しないなら連れてかないし、ご馳走見つけても食べさせないぞ」
「よし、もらっておくにゃ」
「ええっ?!」
オルガの誇りはどこいった。
「リオンさん」
「は、はい」
「色々と本当にお世話になりました。この恩は絶対返しますから!」
「いえ、そんな」
「俺も返すの手伝ってやるにゃ!」
「お前が一番頑張って返せ!何にも取れなかったらお前売るからな!」
「んにゃ!?が、頑張るにゃ!」
「仲間を売っちゃダメですよ!」
「そうにゃ!」
「いや、別に仲間じゃないですし」
「なんでそんにゃ事言うにゃ!!」
「え?!おい!やめろ!」
リルが飛びかかってきた。
「痛い!噛むなバカ!」
「ぎゃっ!ご主人様が殴ったにゃ!」
「この野郎!」
「にゃーー!!」
「ちょっと2人とも!落ち着いて下さい!」
俺とリルがお互いに何発かダメージを食らった所でリオンさんが間に入った。
「仲良くして下さい!じゃないと冒険は上手くいきませんよ!」
「うーー」
「・・はい」
「いいですね!約束!」
リオンさんの言葉に、俺とリルは頷いた。
確かに、出発前に体力使ってどうする俺。
「よし!じゃあ色々準備して・・いつ頃出発されますか?」
「今からにゃ!」
「今から?!」
「そうだな。早い方がいい」
「えぇ!?でも、まだお二人とも体が」
「肉食ったから平気にゃ!」
「えぇっ?!そんな筈ないですよ!」
「大丈夫ですよ。今回は狩りじゃないから。ベネビス山までは歩いてどのくらいですか?」
「え、えーっと、そうですね、3日あれば」
「よし。なるべく早く戻ってきますから」
「・・わかりました。お待ちしています」
「またご馳走作ってにゃ!」
「勿論です。二人とも、怪我しないようにして下さいね!」
「はい!」
「にゃ!」
俺とリルは力強く返事をして、リオンさんの家から出る。
リオンさんは俺達に手を振って見送ってくれた。
なんだろう。自分の中からかつて無い程のやる気を感じる。
目指すはベネビス山。今度こそ必ずターゲットを確保して帰ってくる。そして・・・!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます