第9話 ターゲット変更
「えーーっと・・リル?」
俺は部屋に残ったリルに声を掛ける。どうも気になる事があった。
「にゃ?」
「1つ聞いていいか?」
「にゃー」
「お前狼なんだよな?」
「にゃ!」
「じゃあなんでにゃあにゃあ言ってるんだ?狼って犬の仲間じゃなかったか?」
「キャラ付けにゃ」
「キャラ付け!?」
(なんだそれ!?)
「嘘にゃ」
「嘘!?」
「ほんとにゃ」
「あん!?どっちだよ!?」
「にゃんの話しだったかにゃ?」
(こいつ・・!)
「あ、にゃあにゃあ言ってるのは元のご主人の影響だにゃー」
「元のご主人?どういう事だ?」
「俺は少し前まで別の人間の世話ににゃってたにゃー。その時の主人がせめてウルフじゃにゃくてにゃにしろって」
「ウルフじゃにゃくて・・?」
「にゃ」
「もしかしてお前、それまではにゃの代わりに語尾にウルフって言ってたのか?」
「そうだウルフ」
「戻ってるよ!?てかそんな語尾ねえだろ!いや、にゃもどうかと思うけど!」
「だって俺は誇り高い狼だにゃ!」
「誇り高い狼が猫に寄せるなよ!それに語尾にウルフを付ける理由がよくわからん!」
「かっこいいと思ってたにゃ!」
「かっこよく無いだろ!」
「にゃ、にゃあ・・・」
「あ、いや、しょんぼりするなよ・・ほら昨日はかっこよかったし」
「にゃあ!頑張ったにゃ!」
リル嬉しそうに笑う。
「ご主人様もかっこよかったにゃ!ワームはあの後動けなくなってたにゃ-」
「そうか・・インパクトボムが効いたんだな。待て、なんで俺がご主人様?」
「にゃ?俺を助けてくれたから俺のご主人様にゃ」
「いや、別に助けた訳じゃないぞ。たまたま共闘みたいになっただけで」
「細かい事はいいにゃ!ご主人様がいにゃかったら俺はワームに食われてたにゃ!」
「それはそうかもしれないけど・・でもお前がワームを引きつけてなかったら俺もインパクトボムをワームにぶち込めなかった訳だし」
「ご飯まだかにゃあ-」
「聞けよ!」
俺がリルのマイペースさに困っていると、リオンさんが戻ってきた。
「お待たせしました」
「待ってたにゃ!美味そうだにゃあ」
リオンさんは、ローストした肉、パン、果物を皿一杯に盛りつけて持ってきてくれた。
「ヤマトさんも沢山食べて下さいね」
「えっ・・いいんですか?」
「勿論です。美味しいって言って貰えるといいんですけど」
リオンさんそう言って照れ笑いする。
(か、かわいい・・・)
「じゃ、じゃあ・・頂きます」
俺はそう言って、皿から肉を取り分けて口に頬張った。
「う、美味い!めちゃくちゃ美味いですよ!」
思わず絶賛する。その肉はこちらの世界にきて食べた料理の中で、確実に一番美味かった。
「そ、そんなにですか!?でも良かった。リルさんはどうですか?」
リルのほっぺは既にどんぐりを頬張ったリスみたいになっている。
「うーん。なんか薄味だにゃー。でもそこそこ美味いにゃ」
「おおぃ!作って貰ってるのに!それに全然薄味じゃないだろ!」
「にゃ?」
「あはは。いいんですよ、少し味覚が違うのかもしれないし」
「はぁ・・・しかし・・」
俺は全く遠慮せずにばくばくと肉を口に運ぶリルを見て申し訳ない気持ちになる。
もう少し礼儀と言うか・・そういえばこいつは何歳なんだ?
「リル」
「にゃ?」
「お前って何歳なんだ?俺より年下だよな?」
「三歳にゃ」
「三歳?!」
「それか15くらいにゃ」
「あん?!どういうことだ?」
「狼としては三歳だにゃ。人間に直すと15歳くらいじゃにゃいかにゃ-」
「そういうもんなのか・・?」
よくわからん・・が、だとしたら納得が行く。
まだ生まれて3年ってことか。
「じゃあ、お前は・・・あぁ!?」
「ど、どうしました?」
「肉が!リル!お前なんで肉ばっかり食べるんだよ!リオンさんの分が無くなってるじゃないか!」
皿からは既に肉が無くなっていた。
「狼は肉しかたべにゃい」
「半分人間だろ!?す、すいませんリオンさん・・!」
「あはは。大丈夫ですよ!私は果物食べたかったので」
リオンさんはそう言って果物を口にする。うう、申し訳ない・・・
「でもホントに心配したんですよ?食材の事を聞きにきて、1日もせずに傷だらけで戻ってくるんですから」
「確かに・・面目ない・・」
更に申し訳ない・・
「まさかお一人でワーム狩りに?」
「まぁ・・」
「無茶ですよ!私でも1人では行かないですもん。あんまり無理しないで下さいね」
リオンさんにそう言われると、むしろ何としても1人でワームを狩って良いところを見せたくなるけど・・
「まぁ・・はい。この体じゃ無理そうです」
そう言って包帯だらけの体を見る。
なんとか動けはするが、とても走ったりは出来そうにない。今またワーム狩りに行っても結果は見えている。
「そういえば、にゃんでご主人様はワームを狩ってたにゃん?」
リルは今度はパンを口に押し込みながら尋ねる。
俺は皿に残った最後のパンを慌てて確保して答えた。
「売るつもりだったんだよ」
「にゃるほど。ワームの肉は美味いから高く売れるにゃ?」
「そういうことだ。・・リルはなんでワームと戦ってたんだ?」
俺はそのまま聞き返した。
「晩飯取られたにゃー」
「晩飯?」
「俺が頑張って捕まえた羊を横取りしやがったにゃ!」
リルは悔しそうに言う。
「あー、ワームに羊食われたのか。それでワームと・・?バカなのか?」
「にゃっ!?」
「だってお前だけであのワームに勝てる訳ないだろ。晩飯取られたからって普通戦うか?」
「戦ってみなきゃわかんにゃいにゃ!」
「いやわかるだろ。戦力差を考えろよ」
「ご主人様だって1人でワーム狩ってたじゃにゃいか!」
「うっ・・」
そう言えばそうだった。
「にゃはは。俺がバカにゃらご主人様もバカにゃ-」
「うるせー!一緒にすんな!」
俺は一応準備とかしてたんだよ!
「あ、あの、とりあえずもう2人ともワームと戦ってはダメですよ?」
俺とリルの低レベルな争いに、リオンさんが仲裁に入る。
「俺はお腹いっぱいににゃったからもう戦わないにゃ。ご主人様はどうするにゃ?」
「俺は・・」
そう言えば占いのババアに占って貰う為に大金がいるんだった。
でもワームしか選択肢が無かったのに、ワームもダメになると・・・
「ヤマトさん・・?」
リオンさんが心配そうな顔で俺をのぞき込む。
すると無言の俺の代わりにリルが答えた。
「金を稼げればいいにゃら良い方法があるにゃ」
「良い方法?」
「俺ははにゃが効くにゃ。高く売れる食べ物を探しに行くにゃ」
「はにゃが効く・・?」
「成程。狼は人間よりずっとずっと鼻が良いんですよ。それならまだワーム狩りよりは危険は無いかも!」
「鼻か。へー、そうなのか。確かにそれなら・・」
わざわざ危険を冒さなくても稼げる・・?
「ただ問題が1つあるにゃ」
「問題?」
「実際に1度食べにゃいと、探せにゃい。高く売れる食材にゃんて知らにゃいからにゃー」
「だめじゃねーか!」
「だから俺に高い食材を食わせるといいにゃ」
「お前が食いたいだけだろ!?てか手持ちに高い食材があったらそもそも狩りに行ってねえよ!」
「にゃー。にゃいのかーデザートが欲しかったのににゃー」
「おい?本音が聞こえたぞ?!」
「にゃはは」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
立ち上がった俺を抑える様に、リオンさんがまた人の良い提案する。
「うちにある高級な食材を差し上げますから、良かったら食べて下さい」
「ええっ!?いや、そんな悪いですよ!」
「頂きますにゃ!」
「頂くな!」
「にゃんでにゃ!?」
「これ以上世話になれるか!何のお返しも出来て無いんだぞ」
「うーー」
「大丈夫ですよ、ヤマトさん。」
「え?」
「オルガのリルさんなら、珍しい食材を見つけられると思います。珍しい食材を獲得できたら、それでお返しして貰えれば」
「にゃ!」
「え・・でもいいんですか?ほんとにこいつに見つけられるとは・・」
俺は既に涎を垂らしているリルに不安な視線を向ける。
「あ、あはは。大丈夫だと思います。ね、リルさん」
「勿論にゃ!俺のはにゃは普通の狼よりも鋭いにゃ!だから沢山取ってこれるにゃ!」
リルはそう言って胸を張る。
「うーん」
確かに、リルの言葉通りなら願っても無い事・・なんだよな。
今の俺の体の状況で危険を冒さずに大金を獲得出来るチャンス・・しかしこれ以上世話になって、もしまた失敗したら・・
「じゃあ調理場に来て下さい。食料がありますから」
「行くにゃあ!」
「あ、おい」
迷っている俺を尻目にリオンさんとリルは調理場に向かう。
俺慌ててその後を追いかけた。
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