第4話 占い師
「お、おい。まだ奥に入るのか?」
目の前を歩く老婆に、心配そうに声を掛けた。
森に入ってまだ時間は大して経っていないが、どうも嫌な雰囲気が漂うのだ。
「若いくせにもう疲れたのかい?だらしが無い」
「そうじゃないけどさ・・」
辺りをキョロキョロと見渡す。見かけは暗いが普通の森の中だ。
しかしこの心臓にかかる圧迫感はなんだ・・・?
俺は思わず木の棒を握りしめ、度々後ろを振り返りながら歩いた。
「ほら、もうつくわい」
更に少し歩いて大きな木が見えてきた所で老婆はそう言うと、その大きな大木をぐるりと回りながら坂を下りた。
後に続くとそこには継ぎ接ぎだらけのボロボロの小屋が現れた。
「ここじゃ」
老婆は小屋の扉の前で立ち止まり、そう言って片手を差し出した。
ここで案内料を払えと言う事だろう。
俺は一瞬悩んだが、小屋を見渡して、有り金の大半を財布から取り出して手渡す。
「ホントにここにいるのか・・?」
「ひぇっ ひぇっ 間違いないわい。それじゃあ会わせてやろう」
老婆はそう言って無遠慮に扉を開けた。
「お、おい、勝手に」
「いいから付いてこい。占い師に会うんじゃろ」
老婆はそう言って中に入って行く。俺は仕方なく老婆に続いて小屋に入った。
小屋の中に入ると、部屋は鼻をつまむほどにほこり臭く、窓が無いためにやけに暗かった。明かりと言えば、割れた壁から入り込む日の光が微かに部屋の中を照らしているくらいだ。
その代わりと言ってはなんだが、部屋の至る所に大量の本が山積みになっている。やはり占いに関する本なのだろうか。
「こっちじゃ、さっさときな!」
本の題名を目で追っていると、奥に入って行った老婆から声を投げかけられた。
「余計な事はしない方がいいぞえ。ここに住む占い師は怖いからのう」
老婆はそう言ってニタニタ笑う。
「お前の顔もやべえよ」
「なんじゃと!?無礼者!」
思わず毒づいた俺に、老婆はどこから持ってきたのか大きな水晶玉投げつける。
「痛っ!なにすんだ!?」
「口の利き方をわきまえよ!儂を何処の誰じゃと思っておる!」
「何処の誰って・・・湖に呪われし老婆?」
「勝手に妙なあだ名を付けるでない!いいか良く聞け!儂こそが、お主が探しておる凄腕の占い師じゃ!」
「・・・は?」
思わず聞き返した。
「ふふふ。驚いたか?これからは敬意を持って
「はあああ!?じゃあなんで10万取ったんだてめえ!金返せ!」
俺は老婆に飛びかかる!
「ぶ、無礼者!やめんか!」
「うるせえ!金返せ!」
「ぎゃあーーー!誰か!熟女キラーに襲われるーー!!」
「熟女キラー!?」
「やめてー!ロリコンの熟女キラーにやられるうーー!」
「や、やめろ!特殊な属性つけんな!俺は変態じゃねえ!」
俺は思わず手を離して老婆と距離を取った。
「もっ・・物には順序があるじゃろう。若いからと言って大目に見るとは思わんことじゃ」
老婆はそう言ってわざとらしく乱れた服を直す。
「ぶ、ぶっ殺したい・・!」
「ふふん。殺せば占ってやれんぞ?」
「ぐっ・・ホントにお前が占い師なのか?」
「そう言っておるじゃろ。ほれ何を占って欲しいんじゃ?」
「・・そんな事言って適当こいたらどうやっても金を奪い返すぞ」
「全く疑り深い・・良かろう。まずはお主のことを視てやろう。ほれ、椅子に座れ」
俺はそう言って先に座った老婆を推し量ろうと睨む。
しかし老婆はどこ吹く風と気にしない。
仕方なく俺は老婆の正面にある椅子に座った。
「うーむ?」
「なんだよ」
「水晶玉が無い」
「さっき自分で投げてたじゃねえか!」
「おお、そう言えばそうじゃった。何処にある?」
「何処って・・」
辺りを見渡すと部屋の入り口に転がっていた。俺は老婆の代わりに水晶玉を拾って手渡す。
「ほら」
「うむ」
「うむじゃねえよ・・・」
「ではまずはお主の悩みから・・・」
老婆はそう言うと、水晶玉の上に両手をかざして中をのぞき込んだ。
「成程成程。どうやらお主は心配しておる事があるようじゃな」
「そんなの誰にでもあるだろ」
「そのひねた目つきではたして将来結婚できるか心配しておるな」
「心配してねえわ!ほっとけ!」
(この国の奴はまず人の顔をディスらないといけねえ決まりでもあんのかよ!?)
「違うのか。ではいざという時にちゃんと出来るのか心配しておるのか」
「な、なんの話しだよ?」
「心配せずとも大丈夫じゃ!勝負は下を脱ぐまでわからんと言うじゃろ!」
「下駄を履くだろ!?なんの勝負してんだよ!?」
「どうしても心配なら最初は年上の女を選ぶと良い。お主がへったくそでも上手く導いてくれようぞ」
「誰が下手くそ!?さっきから何の話ししてんだ!」
「なんじゃ違うのか?」
「全然違う!」
「うーむ・・。そうか!悩みが無い事が悩みなんじゃな?」
「アホか!そんな相談するためにわざわざ来るわけねえだろう!お前、やっぱり占い師ってのは嘘だろ!」
「失礼な!儂を誰だと思っておる!」
「知らねえよ!誰だなんだよ!?もういい、金取り返して帰る!」
「またんか!早い男は嫌われるぞ!」
「わかったぞババア!さては最初から俺に喧嘩売ってたんだな?!」
俺はインパクトボムを握って老婆に近づく。
「ま、まあまて、落ち着け。・・・ようやく見えてきたわい」
「あん?」
老婆はそう言いながら再度水晶玉を見つめだした。
「ふーむ。心配事は家族の事のようじゃな」
「・・・」
「母親・・・いや、父親・・・んん?お主一体どこからきたんじゃ?」
「えっ!?」
「お主を覗いても数ヶ月しか遡れん。かといって記憶を失っておる訳でもなさそうじゃ・・・と言う事は、この世界に来たのが最近と言う事になるが・・・」
老婆はそう言って視線を水晶玉から俺に移した。
「・・・」
俺は何も言えずに黙り込む。まさか、そんな事まで分かるなんて予想もしていなかった。こいつ本物か・・?
「どうやら当たりのようじゃな。と言う事は、儂に占って欲しいのは元の世界への戻り方・・・いや、違う。心配している家族の行方か?」
「・・・弟だ」
「2人でこの世界に来てからはぐれたのか?」
「いや、弟を探すためにきたんだ」
「そうかそうか。それは心配じゃのう。弟の居場所を占って欲しいか?」
「占ってくれるのか?」
「勿論じゃ。お主は飢えた儂に魚をくれたじゃないか。恩は返さんとのう」
老婆はそう言って優しく微笑む。
「そ、そうか。ばあさんの事誤解してたよ・・じゃあ、その、よろしく頼む」
「うむ。300万エニーじゃ」
「ん?」
「占ってやるから300万エニーよこせ」
「なんでだ!?魚の恩を返すんじゃねえのかよ!?」
「代金は代金じゃ!魚一匹で300万エニーも負けられるか!」
「なっ・・!300万エニーもあるわけないだろうが!」
「それは自分でなんとかしてもらわんとのう。ひぇっひぇっ」
「このクソババア!」
「金が出来たらまたおいで。ひぇっひぇっひぇっ」
老婆はそう言って手のひらで俺を追い払う。
「この野郎・・!」
だが結局その後どうすることも出来ずに俺は老婆の家を出た。
既に日は暮れて帰り道は暗く、夜に谷を抜けるのは危険と判断して湖の畔に寝転がる。
「300万エニーか・・」
一体どうすればそんな大金が手にはいるだろうか。
日雇いの仕事をしても、良いところ1日1万エニーだ。ましてそこから食費や宿代も出さなければならない。300万エニーも貯めるとなれば、1年以上掛かるだろう。
やはり現実的じゃない。となれば、危険を承知で高収入の仕事を探すしかないが・・
「あのババア、たち悪すぎるだろ・・」
思い出して愚痴が出た。
占いの腕は確かみたいだが、どうにも調子が狂う。
性格が悪すぎてあんな辺鄙な場所に1人で住んでいるんだろうか?
しかしそれなら多少は可哀想に・・ならないな。
だいたい、あの笑い方は占い師より魔女のイメージだ。あいつを捕まえたら300万エニーくらい報奨金が出るんじゃないだろうか?
しかし捕まえてしまったらもう占ってくれはしないだろう。
「うーーーーん」
やはり、どうにかして300万エニー作るしかない。少なくとも、そうすればハヤトがどこに居るのかわかる。
しかし一体どうやって・・
俺は300万エニー稼ぐ方法を考えながら、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
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