第22話
目を覚ますと、辺りは明るくなっていた。壁に掛けてある時計を見ると朝の7時だった。いつの間に寝たのかよく思い出せない。スマホを見ると、吉井からも玉野からも、なんの連絡も入っていなかった。玉野は、気を使ってくれて、何も聞かなかったのが想像出来る。僕は玉野にラインメールで『昨日は、何も言わず先に帰ってごめん、また理由話すから』と送った。するとすぐに返信が来て、わかりましたと喋っている、何か変なキャラクターのスタンプが来た。僕は玉野の優しさに、少し気持ちが楽になった。次に吉井へと電話をかけた。
「もしもし、吉井?」
「おう、昨日はどうしたんだ?」吉井は静かに、ゆっくりと言った。
「まあ、ちょっとな、色々あってな。それより、なんだ。元気か?」
吉井は少し笑って「どうしたんだよ。藪から棒に」と言った。
「いや、篠崎とはあれからどうだ?」
「・・・そっか」と吉井はため息をついて「知ってたか。ああ、振られたよ」と言った。
「そっか・・・」
沈黙が続いた。
「諦めないよ。俺」吉井は強く言った。
「えっ?」
「また篠崎にやり直して欲しいって言うつもりだよ。そりゃ諦めきれないよ。何も悪い事なんて無かったんだから。なのに、突然別れて下さいだなんてさ。まだ信じられないよ・・・」
「吉井・・・、篠崎は風だよ。風向きが変わったらすぐにどこかに行ってしまう。永遠に掴めないよ」
そうだ。風を瓶の中に入れるなんて、所詮出来る訳がないのだ。
「諦めろって、言いたいのか?」
「わからないよ」僕は正直に言った。
「そりゃ、お前にはわからないよ。お前はミサちゃんの事、本当に好きじゃないから・・・」吉井はそこまで言って「ごめん」と謝った。
僕は何も言わなかった。
「今は冷静じゃないから、間違った事を言ってしまいそうだ。今日はこれで切るわ」そう言って吉井との電話は終わった。
僕に出来る事はこれ以上無かった。僕は振り返る事しか出来なかった。そこに篠崎はいつもいる。昨日は上手くいくと思っていた。気持ちを我慢した結果が報われると思っていた。でも所詮つぎはぎの関係だった。
何が正解だった?篠崎に思いを伝える事が正解だった?玉野と付き合ったのは、間違いだった?吉井に篠崎への思いを隠し、建前上、応援するなんて言った事は間違いだった?
僕は振り返る事しか出来なかったけれど、季節はおかまいなしにどんどんと歩みを進める。7月が終わり、お盆が終わり、暑さもひと段落付き、空が少しだけ澄んで高くなった。夏の終わりが近づいて来た。
そんなある日、僕のスマホに篠崎から着信があった。
「ねえ、清水君にお願いがあるんだけど」
8月24日、それは突然だった。
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