第14話
次の日の放課後の帰り際に、廊下で篠崎と一番仲のいい友達の酒井サヤカを見つけたので「なあ、酒井、今いいか?」と僕は声をかけた。
「何?清水、改まって珍しいね」と酒井は無邪気な顔でそう言った。
「聞きたい事があるんだけど」
酒井は何かを期待するように「なあに?」と言った。
「えっと、篠崎の事なんだけど」そこまで言うと酒井は目を細めて、明らかに不機嫌な顔になった。僕はこの時点で、篠崎の妊娠の事を聞くことを断念し「沖縄旅行の話だよ」と言った。
「ああ、なんだ。清水もあの話をするのかと思ったよ」そう言って酒井は一変笑顔になった。
「何?あの話って?」僕はとぼけて聞いた。
これ以上何も言わないだろうという僕の予想に反して、酒井は続きを喋りだした。
「最近、クラスの男子にマリの事ばかり聞かれるからさ、清水も同じなのかなって思っちゃった。ごめんね」
「あの事って、あの事?」
「そう、でも実際私も本当の事はわからないんだよ。マリはああ見えて、本当に大事な事は言わない子だからさ」酒井は顔を曇らせた。
酒井の表情は山の天気のようにコロコロと変わる。
「でも、前の彼氏と、酷い別れ方をしたのは本当みたい。そんな顔全然しないんだけどね」
僕は相槌を打ちながら聞いた。
「マリの前の彼氏、一度しか会ってないけど、本当に嫌な奴だったな」
「どんなやつ?」
「最低なやつ。顔と雰囲気だけで、自分の事しか考えてなくて、信じられる?マリが席を外した時、私にも口説いてきたんだよ。マリならもっといい人と付き合えるのにさ。馬鹿よ」
「なんで、そんな奴と付き合ってたの?」
「さあ、知らないわ。押しに弱いのかな?でも別れる時は大体マリから振るんだけど」
「俺、篠崎の事あまり知らないんだけど、酒井から見て篠崎ってどんな奴?」
「そうねえ、正直言うとね。私もマリの事なんて殆ど何も知らないようなものなのよ」
「一番仲が良いように思うけど?」
「そんな事も無いわ。マリからしたら私なんてただのクラスメイトAだわ。こんな事言いたくないないけど、マリの雰囲気がそうさせるのよ。マリは絶対人に見せたくない自分があって、私には見せてくれないの。だから私達はいつまでたっても友達ごっこよ」酒井は珍しく悲しげな目をした。
「いいのかそれで?」
「いいも悪いも無いじゃない。見せてくれないものを無理やりに見ても辛いだけじゃない。今の関係が楽でいいの。だからマリが妊娠してるかどうかなんて私に聞かれてもわからないの。でも次は吉井と付き合うみたいだから妊娠してないんじゃない?」
「えっ?」
酒井は今何を言ったのだろう。
「えっ、まだ知らなかったの?昨日吉井が告ったみたいだけど・・・、てっきり清水には言ってると思ってた」
「知らなかった・・・」
僕はそれ以上何も言えなくなった。
「どうしたの?大丈夫?まあ吉井も水臭いよな。そう落ち込むなよ。元気だせよ。ジュース奢ってやるからさ」
酒井は自販機でジュースを買い、僕に渡し「じゃあ、またね」と言って去って行った。
僕は取り残された。
吉井と篠崎が付き合う事になった。その事実は、僕の心に鈎針で深く引っかかり、ブラブラと大きく揺れていた。
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