第12話
全てのテストが無事終わった。放課後、まだまだ輝き足りないといった太陽の下、家に続く海沿いの道を自転車で走っていると、前方に犬の散歩をしている玉野を見つけた。
「玉野ー」
「あっ、先輩」
犬種はダックスフントだろうか、落ち着きなく涎を垂らしながら玉野の足元をグルグルと回っている。玉野はグレーの薄手の半袖パーカーに、ピンクのランニングシューズを履き、髪を後ろで纒めている。
「今帰りですか?遅いですね」と玉野は言った。
「就活の講習があったんだ」
「頑張ってるんですね」
玉野の所属している(僕も入っていた)ウチの学校の水泳部は、県内でも強豪の部類に入る。特にこの時期は盛んに練習が行われ、帰宅するのが7時8時になる事はざらにあった。テスト期間も終わり練習が再開されているはずだったので、この時間に玉野に会うのは不思議だった。
「玉野、部活は?」
「ちょっと病欠です」玉野は申し訳なさそうにそう言った。
「そうなんだ。元気そうに見えるけど?」
僕は小柄な玉野の体を上から順に点検した。
「肌のトラブルです。元々肌が弱かったんですけど、最近特に塩素が肌に合わなくなってきちゃって」
「それって、水泳を辞めなくちゃいけないんじゃない?」
玉野は何でもない風に、あっさり「そうですね」と言った。
「あまりショックじゃなさそうだね」
「元々、才能も情熱も無いですし、潮時なのかなって自分で思ってる所があって、このままマネージャーになるか、きっぱり辞めるかで迷ってるんです」
「確かに才能は無かったかも」僕は玉野だからこそ遠慮なく言った。
「酷いですよー」玉野はそう言って、僕の胸を叩きそうになった。けれど触れる直前で思い留まり、腕を後ろへと引っ込め「すいません、そろそろ失礼します」と俯き、犬を連れ去っていった。玉野は接している僕に余裕があるからか、僕の心を穏やかにしてくれる。玉野は僕の心を正しい方向へと導いてくれるようだった。
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