20 彼等の七年間
ぱちぱち。
指を大きく広げたまま手を叩く娘を国王は背筋を寒くさせながら眺める。
「お前は…… 本当にリタリットなのか?」
「信じたくないなら信じなければいいよ父様。アタシもここに長居する気は無い。ただあの時のことを言いに来ただけ」
「あの時」
「母様と兄様がやられて、アタシが逃げ出して、その後またたくさんの悲鳴が聞こえたはなし」
「興味深いな」
「でしょぉ?」
にっ、とリタリットはアンネリアに笑った。
「アタシはまだ十歳かそこらだった。
奴等が来た時、兄様がすぐに逃げろと言ってくれた。
お前の声は母様と同じでよく響くから、口に布を巻いてろ、と言われた。
奴等が来る前に、こっそり、地下から這い出た。
アタシはひたすらそこから走った。
森に入った。
まだまだ走った。
歩きもした。
でも、ともかく、行けるところまで行った。
国境の森まで走った」
「あんた等が住まわせていた離れの館と、国境の森が近かったのが此奴には良かった。
俺は俺で、こいつの懇願で、奴等から森に放り出された。ただし、後ろ手に縛られ、何も持たず、だ」
「アタシはスワドにぶつかって。
スワドの縄をそのへんの石で切って。
アタシ等はどっちも同じモノから逃げないといけない、って思った。
そこからは、一緒に、七年、ずっと生きてきた」
「仕事で始末されたことになってる俺は国には帰れなかった。
そもそも片道の契約だったらしい。捨て駒だ。
しばらくうろうろしてたら、身寄りの無いきょうだいってことで、辺境領の救護院で世話になった。
リタがこんな歳だったことも役立った。
元の服は綺麗過ぎたから途中で売って変えた。
こいつも俺も孤児と言って間違い無かった。
それにまだ、リタの中では母親の声が鳴り響いていて、気持ちが安定していない状態だったから、救護院は本当にありがたかった。
俺は外でしばらく働いた。そして査証を手に入れた。
その後は帝国の南寄りをしばらく渡り歩き、イスパーシャに残した相棒の消息を探ってた。
けどなかなか見つからなかった。
仕方ないだろうな。
そう、ハルお前が閉じ込められていた間のことだ」
「は。懐かしい呼ばれ方だ」
ハリエットはふっと唇の端を上げた。
「だけどアスワドお前は、もう王女もそうやって呼ぶんだな」
ああそうか。
ハリエットは、ハルと相棒に呼ばれていたのか、とアンネリアは思った。
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