6 「雨が降るなんて予定には無い!」
「だがしかし、親として、息子がその様な言われ方をして黙っていられるだろうか!」
「……ああアンネリア様、お察し下さい。私どもは、たった今、息子を目の前でその女に殺されたのですよ?
その動揺を少しは判っていただけませんか?」
「貴方方が最低、普通の貴族であったなら、私も貴方方をこの場から立ち去らせ、ご子息の遺体のもと、ぞんぶんに悲しめば良いと思います。
ですが、その一方で、かつて有望視されていた第一王子と、国王殿下の妾妃殿が亡くなった事実は国王殿下という地位にある者として、見逃してはならないのでは?
王妃殿下、貴女が苦しいのでしたら、貴女は、この場から立ち去っても良いと思われます。
それに現在のこのハリエット嬢の発言が正しいとしたならば、貴女御自身が妾妃殺しの一因であったという予測は無かったことになります。
貴女は妾妃殿を消したいと思ったことは無いのですか?」
「無いとは言い切れません。ですがその様なことを王妃たる者が顔に出すべきではないでしょう」
「そうです、べきではない。ハリエット、貴女の言うその王太子の行動にもその『べきじゃない』は無かったか?」
ああ、とハリエットは不意を突かれた様な表情になった。
「確かに――近いことを口にしていた気がします」
「たとえば? そう、貴女にとって、一番その使い方が奇妙だ、と思ったことでいい」
一番ですか、と彼女は目を伏せる。
「一番、なんて言い切れません。あの男は、例えば狩りに出かける日の朝に雨が降ってくれば、必ずこう言いました。『何で俺が狩りに行くのに雨が降るのだ?』と。
よくある天気に対する悪態と言ってしまえばそうなのですが、空模様というものがあります。
大概の方は、西の空が暗くなってきたら雨が近いとか、そんなことから天気を予想し、空のことだから仕方がない、と諦めるか、雨だった時の対応をしますよね。
ですが、あの男は全くそれをせず、ともかく雨がその時降ってきたことに怒るのです。
こんな予定は無い、と。
私は人間を見る様に幼い頃から訓練されてきました。
ですから、自分が囚われの身となった時から、あの男のことは逐一見える範囲で見てきました。
いつかその監視の目をかいくぐって逃げるか、殺してでも逃走するか。そのために」
「では今回、王太子をこんな衆人環視の中で殺したのは、逃げる算段の一つと見ていいのかな?」
「はい」
ハリエットは艶然と笑った。
「皇帝陛下の代理人、辺境伯令嬢様。貴女がこちらにやってきたことが、私にとっては最大の好機だったのです」
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