5 妾妃一家を襲った理由

「第二王子は第一王子一家が邪魔だった、それだけです」

「それだけ?」

「何と言うか」


 ハリエットは少し考える。

 何とかあの男の答えを、言った時の反応を、まとめた上手い言葉を探す。

 だが、やはり少し誘導が必要だ、とアンネリアは思う。


「その邪魔、は政治的に、王太子になるために邪魔、という意味か?」

「……違いますね」

「では? 妾妃一家が目障りだったとか?」

「近いですが、まだもう少し違う様な気がします。

 たとえば、夜ベッドの側に灯りを点けると窓から蛾が入ってくることがありますよね。

 ぱたぱたと。

 あの男はいつも、そういうものがあれば叩き潰していました。

 ――そういう感じ、です」


 国王夫妻は息を呑む。


「虫けらの様な存在、ということだったのか? 自分の異母きょうだいは」

「いえ、虫けらであるとかどうとか、でなく、『目の前を予定を壊すために邪魔する面倒くさいもの』という感じでした」

「予定?」

「あの男にとっての毎日は、ともかく自分が決めた予定通りに進むことが一番でした。

 私はその中に組み込まれた訳です。

 先ほど私が言った、ベッドの近くの灯りの虫が邪魔なのは、それが居ると気が散ってその場の行為がいつも通りにいかないからです」

「何だそれは?!」


 国王は唐突に立ち上がった。


「言わせておけば女、貴様は、貴様をあれほど大切に扱った息子を、その様に見ていたのか!?

 それではまるで、息子が人らしい感情が無いかの様じゃないか!」

 唐突に大きな声を上げた国王は、額に汗をかき、はあはあと息を荒げた。

「貴方、そんなに興奮なさると、お頭に血が……」

「ええいうるさい、いくら何でも、あれが、そんな理由で第一王子を、アルマやリタリットを殺そうとしたなんて、信じられるか!」

「お言葉ですが国王様、私は質問に答えているだけでございます」

「ぐぬぬ」


 王妃は止めて、と周囲の護衛騎士達に目で訴える。

 だが彼女の望みは叶えられない。

 彼等が受けるのはアンネリアの命令だけなのだから。


「予定、というのが気になるな…… 王太子の侍従長!」


 は、と呼ばれた者はその場に立ち上がった。


「貴方の目から見て、王太子の毎日はどうだっただろうか?」

「あ、はい。実に毎日、規則正しい生活を送られておりました。ただ」

「ただ?」

「我々にもそれを酷く細かく指示することが多々」

「指示、か? 強要ではないのか?」

「アンネリア殿! それは誘導尋問ではないのか!」


 すっ、と彼女は後ろを振り向く。


「お静かに国王殿下。私はただ、ハリエットのみが知り得る情報が知りたい。だからこその話を聞いているのです。その邪魔はしないでいただきたい」

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