7 親身な従者の出現

 ハリエットは続ける。


「十三の歳、私はあの男に囚われの身となりました。

 あの男は毎日私という玩具で遊ぶことを、まず自分の日々の予定の中に組み込みました。

 当初は私の食事の時間等も考えられてはいませんでした。私が日々汚れ、衰弱していくのを見て、おかしい、と怒っていました。

 そしてこのままでは汚れたまま死んでしまう、王子がこの玩具でまだまだ遊びたいのでしたら、充分な食事を与え、常に清潔に保つ様に、と注進した従者のおかげで、私はやっとまともな食事にありつけ、生き続けることができました。

 今の今まで、その従者の方には感謝しております。

 無論そこで、汚くなったら捨てればいい、と思ったのなら終わりだったのでしょうが、そこはその従者の方も、非常に言葉を選んでいました。

 そう、従者の方も、あの男が予定通りいかないのが困るのだ、ということをよく判っていました。

 そしていつも細かく、あの男が癇癪を起こさない様に、予定をこなせる様に、気を遣い、先を読み、それこそ天気以外の点において、予定が狂わない様に努力してきたのです。

 彼は私の存在をどう思ったか判りませんが、ともかくまだ若い小娘がただただ陵辱され、衰弱して死ぬ様を見たくなかっただけかもしれません。

 事情はともかく、私は彼にずっと感謝しております」

「王太子の従者か」


 ちら、とその界隈をアンネリアは眺めた。


「ハリエットの面倒をその様に見てきた従者というのは誰か」

「自分です」


 一歩進み出た者が居た。


「ダッスル侯爵家三男、アイアンと申します、辺境伯令嬢」


 華美にならない、それでいて優雅さを失わない着こなし、身のこなしの彼は、ハリエットの後にと進み、アンネリアに対し、一礼した。


「ハリエット嬢、彼がそうなのか?」

「はい」

「彼とは特別な関係はあるのか?」

「いいえ」

「決してその様なことはございません」


 二人とも真っ直ぐ答えた。

 ふむ、とアンネリアは二人を見た。

 そこには男女の情の様なものは不思議なくらいに一切見えない。


「ではどの様な関係だと言えるのか?」

「アイアン様はとても善い人であるので、私を見捨てることができなかったのです」

「いいえ、自分は善い人間という訳ではございません。

 連れて来られた時のハリエット嬢があまりに美しかったことが一番の原因です。

 自分はただもう、美しいものが好きなのです。

 この先更に美しく花開くであろう少女が、当時の王子の予定狂いの癇癪でもって死なれることに対し、非常に勿体ないと思ったのです」

「それはとても貴方らしいと思いますわ、アイアン様」

「ありがとうございます」


 ふん、とアンネリアは指で自分の頬を弾いた。

 この様にやりとりしていても、確かに色香の一つもこの二人からは見られない。


「それではアイアン・ダッスル殿、貴方に聞きたい。その単調な生活の中で、ハリエット嬢は貴方の目から見て、どう生活し、何を考えていたのか」

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