第33話 もんだいガール

問題が山積している。


何から手をつけたらいいのか、皆目見当もつかない。どだい人間抱えられる問題なんてのはよくて2つ、3つまででそれを超えてくると問題の存在自体が大きな一つの問題になって、漫然と心にのしかかりはするものの、じゃあ1つひとつ対処しようかなんて気分にはさらさらならないのだ。なんて言い訳をしてみる。


目の前の机に積まれた紙の山がさらさらと崩れる。こんな下から出てきたものなんて、初めから存在していなかったのと同じだ。ここまで処理せずに来られたのだから、やらなくたってこれからもなんの影響も及ぼさないのだ。だからやらなくて良いんだ。なんて言い訳をしてみる。


窓の向こうを澄んだ小川がさらさらと流れる。この川には毎年多くの蛍が飛び交う。明滅を繰り返しながら、あてもなくふわふわと空を漂うその姿は人魂みたいだ。きっと私だって、今みたいな姿形で存在していなかった頃はあんな風に光り輝く玉のような存在だったんだよ、だから無性に懐かしい。


時間はさらさらと音もなく流れる。

過ぎ去った時間とまだ見ぬ時間は大事にしなきゃって思うのに、肝心の目の前にある時間だけはどれだけ目を見開いていてもいつのまにか流れていってしまう。「かんじんなことは、目に見えないんだよ。」なんて言われても、肝心なことならより一層はっきりと見えてくれよと思う。わからないといけないことだから、誰にでもわかるようになってくれよと思う。


私の周りを人はさらさらと流れていく。

みんな私と関わり合いになるのを避けようと必死だった。よく就職活動で自分を例えるときに潤滑油なんて言葉を口にするけど、私はほとんど水だった。誰とも絡むことなくここまで過ごしてきた。両親を別として。

両親はそれぞれ異なる方向性で私と絡んできた。親と子なんてそんなものかもしれないが。母は好きだった。


父は嫌いだった。

母は温和で私の味方だった。

父は厳格で私の敵だった。

母は好きだった。

でも、母は死んだ。父は涙一つ流さなかった。


私は生まれついての不良品だった。

何もかもうまくいかない。勉強をすればクラスで一番理解が遅かったし、運動をすればいつまでたっても初歩を抜け出せなかった。私には問題が多すぎた。

問題が私を絡めとり、離さなかった。頭の中はいつもぐるぐるしていたし、心はいつもふさぎ込んでいた。我ながら面白くない生き物だ。


母が死んだとき、私は自分も死のうと考えた。

だって生きる理由がないんだもの。死ぬ理由もなかったけれど。この世に未練なんてさらさらなかった。人魂だったころの方が自分に馴染むような気さえした。


「あなたらしく生きなさい」この一言が私をこの世界に繋ぎ止めていた。これがなければ私はふわふわと漂って、とっくに姿を消したいたに違いない。

でもね、お母さん。私らしさってなんだかわからないよ。難しいよ。

もうやめてもいいかな、もともと私は不良品。問題だらけの失敗作なんだよ。

わかりっこないよ、ねえ、お母さん。

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