第22話 でんわ
スマートフォンのスピーカーから聞こえる声は少し震えていた。
それに応じる私の声には怒気が含まれている。
相手は私の気迫に気圧されたようで、先ほどよりも声の震えが大きくなった。
私はそれを受けて多少気配を和らげてみる。
相手はほっと一息つきながら、口の端に笑みをこぼした。
相手が思わぬ一言を、いともあっさりと放り込んできた。
私の鼓膜は最初、唐突にやってきた音の振動を上手くキャッチすることができずに、しばし言葉を失ってしまう。
相手はこれ幸いと、かこつけて勢いよく捲し立てている。
私は負けじと言い返したが、その声に先程までの力強さは皆無で、おそらくきっと相手は意に介さないだろう。どころか、火に油を注いだだけかもしれない。
相手は少し寂しそうに、ぽつりと呟いた。
私は深く共感した。
私は一つ提案をしてみた。相手の気分を害さないよう、なるたけ柔らかく温かい愛情の込めた声色を捻り出してみる。
相手は心地よく耳を傾けた。
私は気分を良くして囁きかける。
相手はうんうんと頷いているようだ。
しかし、私は突然何もかもが嫌になった。理由などない、いつもやってくる気の迷いだ。誰にでもある。
今すぐにでもこの電話を切ってしまいたい。
不思議なことに相手も同じ気持ちのようだ。打つ相槌に心がない。
相手が切ってくれないものだろうか。
私たちは会話を切り上げる口実を探した。
だがその糸口はなかなか見つからない。今話していることはさっきもほとんど同じ内容で話したことなのに。
ああ、そうだ。充電がないことにしよう。
そう思った時、不意に通話が途切れた。どうやら相手方の不慮の事故らしい。
さっきまで切りたくて仕方なかった糸が、不意に切られると、世界は突然小さく閉じこもった様相を呈した。
私はこの小さな密閉された球体然とした世界の中で、だらんと途切れた糸の伸びたスマートフォンを手にしながら、ただぼんやりと立ち尽くすだけだった。
手元のスマートフォンの画面だけが、異様なまでに爛々と光って、寂しく孤独な人間を照らし出した。
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