ミライの剣術

第4話 召喚ナイト

「ラピス! 今日は実技試験だから絶対に遅れるなって言ったはずだよなぁ!?」

「い、いや…あの…」

ダメだ。明らかに真っ当な言い訳があるはずなのに言葉が出てこない。

「まぁまぁ先生…まだチャイムが鳴って3分くらいしか経ってないでしょ? そうやってキレてる時間が一番無駄っすよ」

ミライてめぇ…!


「なんだと…! というか誰だお前は!」

「転校生のミライ・シンカイっす。ラピスくんと同じクラスになったんすけど…そんなことより、オレたちが遅れてきた理由を言わせてほしいっす!」

「よーし…言い訳があるなら聞いてやろう…放課後の職員室でな!」


先生はそう言うと、みんなのところへ歩いていった。


「交渉の余地もなし…か。あの先生、剣術で黙らせようぜ!」

「それはもう勝手にしてくれ…」

先生に怒られて、しかもテストまである…

なんで昔の人は剣なんて作ったんだよ!


「ミライく〜ん、何やってたんだよ〜」

「あの先生の授業に遅れて来るなんて勇気あるよね」

「いやぁ、ちょっと一悶着ありまして!」

入学して3ヶ月が経つ俺よりも、今日来たばかりのあいつの方がクラスに馴染んでいる…


「静かに! …今日は知っての通り、みんなには実技試験を行なってもらう。1学期の成績はこの試験によって決まるから、くれぐれも手は抜かないように!」

相変わらず威圧感がすごいな…憂鬱だ。


「最初の項目は攻伐こうばつだ。ダリス先生にナイトを召喚してもらい、1人1人が剣を交えるという簡単なものだ。召喚されるナイトの強さは一定なので、強いと感じる者もいれば弱いと感じる者もいるだろうが、油断だけはするなとだけ、伝えておこう…アダム! まずはお前からだ」

召喚されたナイトは黒い鎧で全身を覆われており、身長は俺のへそのあたりしかない。


出席番号順に始まった試験…頭や胸に当てられるか四角い枠から出るかすればその時点で終了らしく、「攻伐」では次々に生徒が脱落していった。


「次は…ミライ!」

「は〜い」

ついにミライの番がやってきた。アレクたちと喧嘩をしたときは直接手をくだすことなく終わってしまったので、剣術の腕前はまだ分からない。

「思いのほか強かった…」

「あのナイト小さいくせに腕力すげぇもん…てかアリスちゃん大丈夫?」

「私は平気だよ。…確かに結構強かったね」

ミライを含め20人いるこのクラスには、5人だけ女子もいる。女子といえども、相手はヒトの形をした召喚獣…容赦はなかった。


「重っ! 剣ってこんなに重かったっけ?」

ミライは戦う前からあの様子だ。もしかしたら意外と弱かったりして…

枠内で向かいあうミライとナイトの様子を、俺も、他のみんなも見守っていた。


「はじめ!」

先生の一声で最初に動いたのはナイトの方だった。地面を蹴るようにして飛びかかったナイトは胸元を狙ったらしい。

切っ先がミライの目の前まできたとき、ミライは空高くジャンプした。そのまま剣を下に向け、ナイトの頭を目がけて落下した。しかしナイトは、頭上を確認するとすぐに後ろへ下がった。

数メートルほど間隔があき、地面に刺さった剣にまたがるミライは頭をかいた。倒せると思ったのに…と言わんばかりに。


ナイトはさらに追撃した。今度はミライの頭を狙ったようで、剣が横に振るわれた。

…元々のフィジカルが強いのか?

刺さった剣に足だけで掴まり、体を後ろに反らせて地面に手をついた。

次にナイトはミライの足を狙ったが、ミライは足をパッと離したかと思えば、地面の両手に力を込めて逆さのままジャンプした。


「手だけでジャンプできるものなのか!?」

「てか、剣術なのに剣使ってないじゃん」

生徒は思い思いの感想を口にした。


空中で体勢を立て直し、ミライはそのままナイトの頭に蹴りを入れた。




…結果として、ミライは剣を使わなかった。鎧を着たミライの体重を乗せて刺さった剣はかなり深くまでめり込んでいたようで、彼はすぐに引っこ抜くのを諦めた。

ミライは倒れたナイトから剣を奪い、その剣でとどめをさしたのだった。


「…そこまで」

先生は溜め息をついて制止した。

「先生! どうっすか? オレなかなかやるでしょ!」

ミライは腰に手を当てふんぞり返っている。

「ミライ・シンカイ、お前は追試だ」

「ええ!? なんでっすか!」

先生とミライは枠の中で言い合っている。生徒たちも、あのやり方じゃ成績つけられないよねとか、色々と話している。


「なんでじゃないだろう! ヒトの剣を奪って戦うやつがどこにいる!」

「ここにいますけど」

「やかましい! とにかくお前は追試対象だ! ふざけずにちゃんと戦え!」


先生はまた、枠の外に戻ろうとしていた。


「…ふざけてないっすけど」

「なんだって?」

ミライは先生の背中に投げかけた。


「確かにオレは剣を奪いました。けど…剣を使うときがあるとすれば、それはルール無用のガチの戦いっすよね? 武器を奪ってでも相手を倒す、自分や他の人の命を守る…それってホントにダメなことなんすか?」


ミライは先生の目を見て説得している。


「…それも一理あるかもな。しかし、お前の戦い方には無駄が多かったように思うんだ。ジャンプをしたり、蹴りを入れたり…あれがお前なりの有効的な戦い方だったのか?」


先生の問いかけに対する答えは…


「いえ、有効的とかじゃなくて、楽しいからああやって戦ったんです! みんなだってオレの戦いを見て楽しん…」


「ミライ、やはりお前は追試対象だ」

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