第3話 不良の運命は…

「オレは転校してきたばっかで、こいつらがどんなヤツらなのかよく知らねーの。ラピスくんはこいつらのこと…どう思ってる?」

どう思ってるって聞かれても…というか本人の前で言うのか!?


「ちゃんと言わなきゃ分かんないぜ?」

能力や性格に関してはミライの方がよっぽど未知数…断ったらそれはそれで怖いな…


「俺は…この人たちのことは怖いと思ってるし…入学してすぐの頃にも、いきなりお金をゆすられたよ。正直なところ、あんまりいい印象は持ってないというか…」


「おい…」

アレクはうつ伏せのまま睨みつけてきたが、ミライはすかさず彼を「椅子」にした。

「おい!? …どけよ! ふざけんな…クソッ…いてぇ…」


「うんうん! ちなみに、暴力を振るわれたことはある?」

「…1回だけ、お金をせびるのはやめてくれって言ったことがあるんだ。そのときに思いっきり顔を殴られた…」


「へぇ…」

ミライは、口元は微笑んでいるものの目元はまったく笑っていない。


「ラピスくん、どうしたらこいつらは丸くなると思う? …こいつらの被害者を全員集めてさ? やられたことそっくりそのままやり返した方がいいのかな?」

ミライは、冷や汗をかいたアレクのほほをペチペチと叩く。


「なぁ、ミライ」

「どうした?」

やり返すとかやり返さないとかじゃなく、ひとまず俺には気になることがある。


「彼のことなんだけど…」

「こいつ? こいつがどうかしたか?」


「…ヒーリングした方がいいかも」

「え? ヒーリング?」

ミライは「期待していた答えとは違う」というような顔をしている。


「ミライが食らうはずだったお腹へのダメージが、そのまま彼に返ってきた…っていう感じだろ?」

「まぁ…そうなんだけどさ」

ミライはアレクの様子を見ながら答える。




「多分だけど…彼、内臓をやられてる」

「え、マジで!?」

焦ったように、ミライは飛びのいた。

「はぁ? そんなにヤワじゃ…ねぇって!」

アレクは声を振り絞っている。


「ケガをしてないならそれが一番いいんだけど…ちょっと失礼するよ」

「てめぇ…なに勝手なこと…」

それでもアレクはすごんだが、ここは強引にでもヒーリングをすることにした。

俺の手から繰り出した魔力が、淡い緑の光となってアレクを包む。…やっぱり。小腸のあたりから出血しているみたいだ。




しばしの間、広場に沈黙が訪れた。


「このまま放置してたら危なかったよ。アレクサンダーくん、調子はどう?」

「…確かに…なんか痛みがひいたような…」

「よし、つたをほどいてあげて」


ミライに魔法を解いてもらい、アレクにはその場に立ってもらう。

「念のためにもう1回診せてもらってもいいかな?」


…待てよ? 人前で大人しく治してもらうだなんて、もしかすると不良からしてみれば屈辱なのでは…? だとしたら殴られるのでは!?

俺はふとそう思ったのだが…


「…ああ、頼む」

殴られる心配はなかった…みたいだ。




「…うん。大丈夫みたいだね」

治療の見落としはないようだ。すべてが終わったアレクは複雑そうな顔を浮かべた。

「あんたさぁ…治してもらったんだろ? なんか言うことあるだろ」

ミライは両手を広げて「やれやれ」というような仕草をしてみせた。


「…ラピスって言ったっけか…治してくれてありがとな…カツアゲしたり殴ったりしたのも、すまなかった…」

「あ、うん。全然…大丈夫だよ」


アレクが謝罪やお礼を言うところを、俺はそのとき初めて見た。

「うんうん! 真人間まにんげんへの第一歩だ!」

「…ケガしてる俺の背中にお前が乗ってたの、忘れてねぇからな…」

「いやその…そこまで重傷だと思ってなくてさ…その節はホント、すんません…」


ちょうどその頃、昼休み終了のチャイムが校内に鳴り響いた。その頃にはもう野次馬もいなくなっていた。




「やっべ! 授業始まっちゃう!」

ミライは残り4人の拘束を解いた。


「次の授業って剣術だっけ?」

「ああ…」

「じゃあなお前ら! ケンカすんなよ〜!」

「闘技場そっちじゃないって!」


5人の不良グループをその場に残してミライは去っていこうとした。…が、すぐに戻ってきて、アレクの耳元に近づいた。




「オレさ、自己紹介したときに『魔王倒す』つったじゃん? …あれ本気だからね」




囁き声なのでよく聞こえなかったが、ミライの表情を見るに真剣な話をしているということは分かった。

言いたいことを言えたのかミライはようやく広場を出ていった。俺は後ろの5人を気にしながら、闘技場へと向かったのだった。


〜 〜 〜


「おー…デカいね。コロッセオみたい」

「はぁ…」

校舎を離れ、闘技場が見えてくる頃には俺は鬱屈とした気持ちになっていた。ミライのマイペースさにストレスを感じているのもあるが、それ以上に…


「どうしたラピスよ。溜め息をかぞえるのに11本目が必要になりそうだぞ?」

ミライは両手の指をワキワキさせている。

こうして歩いているうちにも入口から生徒みんなの姿が見えてきた…


「俺さ? 魔法は好きなんだけど、剣術は苦手なんだよ…しかも剣術の先生が…」




「こォらあああああぁぁぁぁぁッ!!」

「ひっ!?」

俺たちを見つけた先生がすさまじい形相ぎょうそうで近づいてくる…

「あちゃー…ご立腹だねぇ」


アレクのときといい、なんでこいつはいつも飄々ひょうひょうとしているんだ…

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