第2話 広場が戦場に

「…言ったな? 逃げるんじゃねぇぞ?」

「逃げない逃げない!」

ミライは笑って手をヒラヒラさせている。

リーダーはミライを睨みつけたあと、そのまま食堂を出ていった。

周りの生徒たちは、ミライのことは気になるが下手に首を突っ込めないらしい。


「…ミライ、俺も付いていくよ。ケガしたらすぐにヒーリングしてあげるから」

こうなれば俺だけでも味方をするしかない。


「別にいいよ〜 オレが勝手に始めたことなんだし! ラピスくんは何もしてくれなくていいんだぜ?」

食器を戻すということは…もう始めるつもりなのか!? いやいや…早すぎるって!


「なぁ、本当に行くのか?」

「オレの足が見えないのか? 着々と広場に向かってるぜ?」

「そっちじゃないから! 広場あっち!」

「そうなんだ。…ところで広場ってなに?」


こいつはホントに…! もういいや…

「広場っていうのは校舎の真ん中にある場所のことだよ。人によってはあそこで昼ご飯を食べたりするんだけど…」

俺は柱と柱のあいだを指さした。予想通り、不良グループが陣取っているせいで誰も使えていないみたいだ。


「邪魔だなぁ。あそこでランチを楽しむ人もいるってのに!」

ミライは不良グループを見つけた途端、ズカズカと近づいていった。目立ちたくないので柱に隠れて注意喚起する…

「おい! …頭とかはちゃんと守れよ!」


ミライは右の親指を立てたまま歩いていく。


「本当に来たんだな」

「もちろん。そんなことよりさぁ…そっちは仲間が4人いるんだね」

ここからだとよく聞こえないが、きっと挑発するようなことを言うに違いない…


「ああそうだぞ? ビビったか?」

「そっちこそ大丈夫? オレが相手なのに、5人だけなんて…しかも、5に…」




次の瞬間、リーダーの右手がミライの腹部にめり込んだ。いつの間にやら集まった野次馬も息を呑んだ。

(あいついきなり殴られて…あれ?)

妙だった。思いきり殴られたはずなのに、ミライは表情ひとつ変えずに立っている。

むしろ…


「おいアレク! 大丈夫か!?」

「どうしたんだよ!」


アレク…というのはリーダーのことだが、彼は腹を抱えたまま崩れ落ちたのだ。

「おい! アレクに何したんだ!」

「何もしてないよ? 殴られただけ〜!」


ミライは両手で指さし、口を尖らせたまま顔を近づけている。そんな様子を見た不良仲間はもちろん黙っているわけもなく…


「ふざけやがって! …かはッ!!」

「おらっ! …いてェ!?」

2人が突っかかり、1人は顎に衝撃を受けて倒れこみ、もう1人はすねを押さえながらうずくまった。

…はたから見る分にはコミカルだな。


「なんだよ。一気に3人も倒れたぞ? オレまだなんにもしてないのにィ…」

残された2人は、物理がダメならと魔法を使い始めた。


「おおっ? おふたりさ〜ん…あんたら魔法使えるんだね? さては頭脳派だなァ?」

片方が炎を手に宿して襲いかかるがあっけなく回避し、もう片方の地を這うような雷撃も華麗な足さばきで避けている。


「なんか楽しそうだな…」

「ええ…なんだか踊ってるみたいね…」


一連の流れを見ていた隣の野次馬はそのような感想を漏らした。

同感だ…ミライのヤツ、なんて呑気なんだ…


「アハハ! 食後の運動にはちょうどいいかもね!」

そのときだった。地べたにうつ伏せになっていたアレクが、ふとミライの両足をがっしりと掴んだのだ。


「おっ?」

「今だ!!」


アレクの叫びはここまで聞こえてきた。それを聞いた2人は魔力を込め始めた。顎と脛をやられた2人も立ち上がっている。

(やばい…! こうなったら俺も魔法で…)


柱の陰からこっそり攻撃しようかと思ったが…もう少し様子を見ることにした。

不思議なことが起きているのだ。

魔力を込めているのに、2人は一向に攻撃をしてこない。…いや、してこないというか…




「何やってんだよ! 早くしろよ!」

「いや…あれ…?」

「ダメだ…できねぇ…」


してこないというより、らしい。


「はぁ!? できねぇってどういう…」

「よし! これだけあれば充分だな!」


ミライは正体不明の黄色い光を右手に持っていたが、それを地面にぽとりと落とした。

染み渡るように消えていった光。その直後につたのようなものが生えてきて、5人の手足をその場に縛りつけた。


「おい…どうするつもりだ…!」

「ははっ…いい眺めだねぇ…」


しゃがみ込んで彼らを眺めていたミライは、突然立ち上がってこちらを振り向いた。




「ラピスく〜ん! おいで〜!」

…なんだと? なんでここで俺の名前が出るんだ? なんで呼ばれたんだ!? おいおいみんなこっち見てるぞ…!?


「早く〜! 青い髪のラピスく〜ん!」

特徴を言うな! 俺のことを知らない人まで俺だって分かっちゃうだろ!


「はぁ…」

仕方ない…行くしかないか…


「お前、こいつの隣にいたヤツだよな? …どうする気だ?」

「いや全然わかんないです…ボクもいきなり呼ばれたから…」

俺は「早く説明しろ」と目くばせした。




「ふふん! ラピスくんはこいつらのこと…どうしたい?」


どうしたい? え、どうしたい…?

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