転生してきたあいつが気に入らない
サムライ・ビジョン
その男、ミライ・シンカイ。
第1話 学校生活:波乱の幕開け
「転校生を紹介します」
「はじめまして!
ヤツは俺たちと同じ学校指定の制服を着ているが、顔立ちがどこかしら違うし…なによりあの自信はどこから来るんだ?
「あははは!」
「くっだらねぇ!」
「魔王を倒す? あいつが?」
後ろの方から野次っているのは、担任も手を焼く不良グループだ。
「…ふふっ」
シンカイミライと名乗る男が鼻で笑ったのを、不良グループは聞き逃さなかった。
「ああ!? てめぇ何笑ってんだよ!」
リーダーの男は噛みついたが、ミライは表情ひとつ変えずに切り返した。
「いやぁ? 別にぃ? 仲良くしようや!」
「…ミライくんにはとりあえず、あそこの空いてる席に座ってもらおうかな」
やはりそうくるか…俺の隣が空いているし、もしかしてとは思ったけど…
「よいしょっと…へへっ、よろしくね!」
「…ああ、よろしく。…なぁ?」
俺は周りを確認してミライに耳打ちした。
「お前に絡んできたあいつら…魔法は苦手だけど物理攻撃はかなり強いんだ。あんまり刺激しない方がいいぞ…」
「そうなんだ。あいつらって、いわゆる不良ってやつ?」
「まぁ、そうなるな…」
こっちは小さな声で話しているのに、ミライは空気を読まずにそれなりの声量で話す。
「ふ〜ん…あんなやつらでも不良になれるんだぁ〜?」
「あんなやつら」を強調して後ろを見やったミライは心底楽しそうだったが…
「ぶち殺すぞてめぇ!」
「ナメてんじゃねぇぞ!」
しっかりと耳に入った不良たちは口々に怒鳴るが、ミライはそれでも微笑んでいる。
「ナメてなんかいないよ。弱そうだなぁ? って思っただけだよ」
俺の隣でそのようなことを言うもんだから、俺としては内心とてもヒヤヒヤした。
先ほどまで、ただ大きな声で威嚇していただけのあいつらも顔を真っ赤にして黙り込み、リーダーはこちらへ近づいてくる…
それに対してミライも立ち上がり、迫り来るリーダーと対峙する…
「…なんだよ?」
「昼休みに広場に来い」
「…りょーかい」
俺もクラスメイトも担任もビビり散らしていた。いや担任は止めろよ…
しかしリーダーはその場で殴ったりはせず、仲間を引きつれて教室を出ていった。
「お前…とんでもないことになったな…」
「そうだね…昼休みに呼び出されるなんて…告白でもされるのかな?」
それでもミライは落ち着いていて、くだらない冗談を言い放った。
「そんなことより先生。もう1時間目っすけど、授業しないんすか?」
ざわめく教室の中、呆気にとられていた担任が我に帰り、授業開始の合図をした。
「名前聞いてなかったね。なんていうの?」
「…ラピス・アンルイスだよ」
「ラピスが名字?」
「下の名前に決まってんだろ…」
「あ、じゃあオレ自己紹介ミスったかも…シンカイ・ミライじゃなくてミライ・シンカイだわ。ミライが下の名前な!」
とにかくこの男は変わり者で、昼休みまであっという間に過ごしてしまった。
〜 〜 〜
「いただきま〜す!」
「よくそんな呑気でいられるな…」
昼になり食堂に人が集まる頃だが、不良たちの姿はない。
「え、なにが? 呑気って?」
「まさか忘れたのか!? 約束しただろ! 昼休みになったら広場に来いって!」
信じられない…暴力だけがトレードマークの極悪集団と恐ろしい約束をしたのに…
「…あ〜! したした! そんな話もありましたなぁ! そんなことよりさ、ラピスくんってすっごく頭が良いんだね。授業中に当てられても間違えずに答えてたし、魔法の授業なんか特にすごかったじゃん!」
「下手すりゃ殺されるかもしれないのに、『そんなことより』で流すなよ! …それに魔法の授業だったら、お前も大概すごかったじゃないか…」
こっちは転校生のミライを心配して言っているのに、まるで分かっていない。
確かに魔法は強いのかもしれない。だけどあいつらは、魔法の仕組みや奥深さからは程遠い、完全物理の連中だ…
奇襲でもされて頭や胸に致命傷を負うことだってありえ…
「…おい! 俺の肉取るなよ!」
「だってラピスくんの肉の方がデカくてうまそうだもん…」
こいつ…ちょっとだけど不良サイドを応援したい気持ちが芽生えてきたぞ…
そのときだった。
「シンカイ・ミライはいるかぁ!!」
突然の大声に驚きつつ食堂の入口を見ると、そこには不良グループが立っていた。
「シンカイ・ミライはイルカじゃないぞ〜 人間で〜す」
「おいバカっ! 静かにしてろよ!」
食堂には生徒がたくさんいる。じっと座っていればバレなかったかもしれないのに、ミライはあろうことか手を振って応えた。
「てめぇ…広場に来いつったよなぁ?」
リーダーがつかつかと近づいてくる。俺の隣にミライがいるせいで、2回目の無駄な緊張感が俺に走る…
「広場には行くつもりだよ。けど見てみ? この量! いくら食べ盛りとはいえ、この量はヤバいっしょ?」
ミライはそう言うが、もう完食している。
「…この量とか言う割には
この学校にいながら、こいつらを知らない人はおそらくいないであろう。
だんだんと声を荒げていくリーダーと、ただ黙って彼を見つめるミライ。周りの生徒たちも、ただならぬ様子に固唾を呑んでいる。
「…食器、片付けてくるからさ。そのあいだに広場行って待ってなよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます