炎の魔法少女

「魔法少女になるのはいいんだけど、わたし、友達はいないよ」

 友達を紹介しろという、一見チャラい要求を受けたわたしは、率直にそう返した。いまさら友達を作ろうなどと思っていないし、後ろめたさもない。


「ほとりちゃん、かわいそう……」

 煽ってくるなこのフィギュア。

「でも、あなたがいいの。あなたの持っている魔法の素質は、本当にすごいから」

 でも萌え……。

「とりあえず、なんでわたしがここに来たのか、説明してもいいかな?」

「はい!」


「んーとね、まず、わたしはこの世界の外の人間。魔法でこのフィギュアを肉体として借りているの」

 まあ、さっきめっちゃ調整してたしな……。


「……ごめん、このキャラクターの口調、すごく説明しづらいから、別のキャラクターにしてもいいかな?」

 そんな気はしてた。じゃあこれがいいかなと言って、別世界から異能が使えるようになる装飾品アーティファクトが流れ着いて大変なことになる作品の、異世界人が身をやつしていたぬいぐるみを差し出す。

「あーあーあー。確かにこのキャラ、ちょうどいいわね」

 順応が早い。中の人、オタクか?


「じゃあ話を戻すわね。それで、私の世界の悪い人間がこの世界に干渉しようとしているの」

「干渉?」

「つまり、滅ぼそうとしている」

 いきなりかよ。

「ただ心配しないで、彼には十分な権限が与えられていないわ。影響範囲はたかだか日本国内、それもほとんど東京。そして、できることは《召喚》くらい」

「影響範囲狭っ」

「これで十分なのよ。《召喚》された化け物――そうね、《魔物》と呼ぼうかしら。《魔物》は、通常兵器では倒すことができない。そちらの世界とはまったく違うエネルギーで動いているから」

「そこで魔法少女か……」

「そうなの。私が与える力を持った魔法少女なら、その魔物に有効な攻撃ができる。誰でもいいというわけではないわ。あなたの世界の人間ひとりひとりには魔法の素質が設定されている。あなたのような魔法の素養を持った人間が必要」

 なるほどね。わりとありがちな設定だ。


「でも、魔法の素養がいるなら、友達を紹介しろというのは?」

「魔法の素養がある人間は、魔法の素養のある人間どうし引かれ合う。あなたに仲良くしている友人がいるなら、その人も魔法の素養がある可能性が高かったのよ」

「でも、わたしを見つけられたなら、似たような方法で他の人も見つけられるんじゃ」

「でもでもうるさいわね。私の権限ではあなたを見つけるだけで精一杯だったし、一人見つければ芋づる式に見つかるから簡単だと思ったのよ」


「じゃあ、逆説的に、わたしの周りには魔法の素養のある人はいない?」

「それはなんとも言えないわ。魔法の素養がある人はいるけど、あなたが想像を絶するぼっちだから出会えていないだれかもしれない。それに、魔法の素養がある人どうしは引かれ合うけれども、逆は成り立たないわ。そうではない人と離れるわけではない」

 想像を絶するぼっち……。


「なら、どうすればいい?」

「どうしようかしらね。5人1組でチームを作ろうと思って、私は5種類の《魔宝石まほうせき》を用意したけれど、あなたしかいない。とりあえずひとつひとつ見てみる?」


 まずぬいぐるみが異空間から取り出した(正直とても興奮した、なんか空間に黒い渦ができて、その中に手を突っ込んで宝石を取り出した!)のは、赤い宝石。

「これは炎の《魔宝石》。これを使えば、炎魔法を得意とする魔法少女に変身できるわ」

「なるほど……」

 そういって宝石を受け取った途端、わたしの服装が変化した。


 黒と赤を基調としたセーラー服風の魔法少女衣装。ところどころに炎っぽい文様があしらわれている。マントがついていて、外側は黒で内側は真っ赤。

 ただし、気になるのはスカート丈の短さ。30cmもないんじゃないか……? それに胸元。Bカップ程度だったはずの私の胸が増量され、乳袋として強調されている。魔法少女といってもニチアサじゃなくて深夜帯のやつだったか……!

 とはいっても、内心はすごくわくわくしている。この手の異能系のバトルアニメはわたしがもっとも好きなアニメジャンルのひとつだ。


「あら、一瞬で変身しちゃったのね。普通は変身するのに時間がかかるはずなのだけれど……、相性がよかったのかしらね」

 ということは、わたしは炎属性向けということなのだろうか。炎、脳筋のイメージが強くてそんなにわたし向きという気はしないんだけどな。


「なんか、魔法、使えそう」

 そんな気がして、わたしは被害なく炎の魔法を使うために風呂場に向かう。ぬいぐるみもふわふわと浮きながらついてくる。

 やろうと思えば辺り一帯を火の海にもできそうだが、当然そんなことになったらまずいのでとても小さな、ろうそくに灯った火を想像する。そして発射。

「《小さな炎フォーコ》」

 目の前に火の塊が現れ、シャワーの水ですぐに消えた。すごい。ちなみにフィアンマというのはとっさにわたしが考えた技名だ。別に無言でも炎は出る。


「なかなかやるじゃない。そのぶんなら、あなたは炎で決まりかしらね」

「そうみたい。なぜだかわからないけど、使い方がわかる……」

「私もこの世界の人間に《魔法石》を渡したのは初めてだけど、いきなりそんなにうまく使える人間はなかなかいないと思うわ。誇っていいわよ」

「あはは……」

 そんなテンプレみたいなことを言われると、逆にちょっと笑ってしまう。


 変身を解除して自室に戻る。気づかないうちに、窓の外は真っ暗になっていた。

「使う《魔法石》も決まったところで、そろそろ実戦ね」

「早くない?」

「悪いけど、今晩最初の《魔物》が現れるのよ。だから今日、私があなたのところにきた」

「いや、練習期間とか」

「そんなものはいらないでしょう?」

 なんで自信満々?


「心配はいらないわ。《召喚》をする側も今晩が初めて。たいした《魔物》は出てこないわよ。あなたのさっきの様子なら間違いなく余裕」

「そんなもんかなあ……」


「今日の《魔物》は渋谷駅付近に出るわ。向かいましょう」

「え、移動系の魔法はないの?」

 渋谷駅まで、30分くらいかかるんだけど。

「それを考えるのはあなたの仕事よ。今のところは普通に行くしかないわ」


 やっぱり練習期間いるじゃん!

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