Legendary iDOL Project!〜「私、証明したい!努力は必ず報われるってことを!」もし、ダメダメな私がステージで輝くあの子に出会えたのなら〜
第1話 憧れが見えるのならそれはきっとキラキラしてる
1章 もしも君になれたなら
第1話 憧れが見えるのならそれはきっとキラキラしてる
「……またですか…………」
私は返却されたテストを見ながら思わず声を漏らした。
数え切れないほどのチェックに、見てわかる丸の少なさ。
点数の横には、貴方が一番です、と赤文字。
いや、分かるから。
わざわざ書くなよ。
「え、なになに?何点?何点?」
「ちょ、勝手に見ないでよ!ゆずちゃん!」
油断した、そう思った時には既に彼女の手に解答用紙は行き渡っていた。
ゆずちゃんは私の努力の結晶を見るなり特に驚きもせずに一言。
「……またですか……」
「そのモノマネは恥ずかしい上に心が抉られるのでやめていただきたい!」
「ははは!ごめん、ごめん!」
「もう…………」
炭酸が弾けるように笑う彼女は今日も楽しそうな為、本気で怒るに怒れない。
「そういう、ゆずちゃんはどうだったの?テスト!」
「え〜それ聞いちゃう〜?」
ムカっ!さっさと教えろや!私の点数は勝手に見たくせに……。
私は急かすように右手をゆずちゃんの方へと伸ばし催促する。
「ん!ん!」
「もう、せっかちなんだからぁ」
「は、や、く、し、ろ!」
ゆずちゃんは頬を染め上目遣いでテストを渡してくる。
芝居ががってるのが最高にウザいが不覚にもかわいいと思ってしまったため特にツッコまない。
「え、ええ!?95点!」
「いやいや、黒板見てみろって」
黒板に表示されているのは平均70の文字。
「今回平均も高いし。まぁ、普通っちゃ普通よ。今回もたいして勉強しないでこれだし」
「やめて、死体を蹴らないで、もう動かないの!」
私も何かの間違いではないのかと自分の解答用紙に視線を落としてみるも案の定バツばっかりでため息が漏れる。
「うーし。静かにー。えー、まぁ、みんなの努力が実を結び満足いったと思う。しかし、ここで気を抜かずに更なる高みを目指してくれ」
担任の木原先生が自慢の顎髭をもじゃもじゃといじりながら話しているとキリのいいところでチャイムが鳴った。
「じゃー終わりー。今週の掃除は……」
うう、嫌な予感……。
この先生はテスト返却日は最下位をとった生徒に掃除をやらせるからこの溜めがすっごく憂鬱だ。
「明日乃。頼んだぞー」
「は、はい……」
名前を呼ばれると教室からはくすくすと笑い声が聞こえる。
やっぱこの状況には慣れない……。
私だって精一杯頑張ったのに……。
「掃除、手伝おうか?」
「いや、直ぐに終わらすから先帰ってていいよー」
「んー……今日は一緒に帰りたい気分だから校門で待ってるね」
「そーゆーデレはもっと早く出しなさいっ!」
「えへへ……」
軽くデコピンをするとゆずちゃんは嬉しそうに笑った。
◇
「はぁ―あ―……これで掃除何回目だろー」
誰も居なくなった教室で私は1人、適当にほうきでゴミを集めていた。
休み明けだというのに結構な量の埃がちりとりに入っている。
……1日でこんなに集まるなら週末まとめてやれば良くないか?
「うわっ!」
窓を開けてたせいで折角集めた埃が宙にまった。
埃は夕日に照らされながらゆっくりと床に落ちてゆく。
きっと雑念のせいだ。そうに違いない。
「あーもう!私のバカ……」
ため息混じりに窓を閉めようと、ガラスを覗く。
その向こうには汗を流す部活生の姿があった。
友達と楽しそうにラケットを振ってたり、顧問に怒鳴られながら必死にボールを拾ってたり、汗を流して、泣いてる人もいた。
みんながみんな何かに夢中で。
今日という1日に名前を付けてるみたいで。
「私、本当に何やってるんだろう……」
自分の惨めさに胸が締め付けられる。
春休みの自分が頭に浮かび視界が霞む。
もしかしたら今度こそは、なんて考えてた自分が恥ずかしくて仕方がない。
「って、オイ!見ろよ!また掃除してんだけど!」
「はは、マジ受けんだけど!」
「バカすぎてウけるわ!」
「ッ!?」
急な出来事に体が固まる。
ああ、最悪だ。
「固まってね?コイツ」
「掃除もまともにできないとか終わってんだろ」
「マジそれな!」
私はゆっくりと振り向いた。
加瀬さん、新山さん、阿良さん。
学校内でも性格が悪くて有名な3人組。
何重にも折ったスカートに校則ギリギリに染めた髪。
所謂ギャルというやつだ。
「おい、何シカトしてんだよ」
加瀬さんが肩まで伸びている亜麻色を払いながら私に詰め寄る。
「いや、あの、別に、無視したわけじゃ……」
ツーと嫌な汗が背中を流れた。
その圧力から逃れようとジリジリと下がるが、直ぐに窓とぶつかって逃げ場は無くなった。
「下ばっか向いてんなよー?」
阿良さんが私の顔をギュッと右手で掴んで無理やり窓に押し付ける。
新山さんがにゅっと阿良さんの後ろから顔を出した。
「何か泣いてね?阿良っち怖すぎぃー」
「はぁ?加瀬のがやばいっしょ?」
「いや、いくらウチでもそこまでしてねぇから!」
「はぁ?」
阿良さんが込める力が更に強くなる。
くっ、苦しい……。上手く呼吸ができない……。
「って、もうこんな時間じゃん!」
新山さんが思い出したように大声を上げると同時に手も離される。
「カハっ、はぁ、はぁ」
私は荒い呼吸を隠すように身体を縮こませる。
「じゃあな―、掃除、頑張れよー」
何とか顔を上げると満足そうな表情をして去ってゆく加瀬さんが映った。
「はぁ、はぁ、っく、うぅ、はぁ、うぅ」
胸がじわりと黒い何かに覆われたような気がした。
情けない、惨めだ、私なんか。
また何も言えなかった。
やめての一言すら口から出てこなかった。
「こんな私、もうやだよ……」
早く終われと願うことしかできなくて。
私の気持ちを1%も伝えられなかった。
勉強も、気持ちも、努力も私は何もかもが薄っぺらだ。
「……マリンちゃんみたいに成りたいよ…………」
紅く染まった教室に、返ってくるのは何かが溢れ落ちる音だけだった。
◇
「お待たせ、ゆずちゃん」
「おっ!遅かった……な」
あの後私は散らばったゴミを軽く集めてすぐに教室を出た。
あれ以上あの場所に居るとどうにかなってしまいそうだったから。
「うん……何かゴミが多くてさ……」
「ミラ……」
「だいたいさー1日であんなにほこりが集まるなら週末にまとめてやっちゃった方が効率いいよね〜」
はは、っと軽く笑って見せた。
何かあったことを悟らせないように。
もうゆずちゃんに心配されたくないから……。
「あの髭メガネ絶対に」
「ミラ!」
「ッ!?」
鋭い声が私の言葉を引っ込めた。
「何か、あったんでしょ?」
「いや、別に何も……」
「うそ」
ゆずちゃんは、じっと優しい眼差しで私を見据える。
そしてゆっくりと手を伸ばして私の目尻を指で軽く拭った。
「だって、涙、ついてるもん……」
優しくネクタイを掴まれてそのまま抱き寄せられる。
柔軟剤の爽やかな匂いと温かな包容感が、私の我慢を殺した。
「う、くぅ、うっ、うぅ…………」
「大丈夫だよ。ミラ。ウチが守るから」
「……うん…………」
「何度もしつこいかもだけどさ、ウチを呼んで?」
「……うん」
「加瀬なんかぶっ飛ばしてやるからさ!」
「うん……うん……」
ごめんね……ゆずちゃん……。
私、助けを呼ぶ勇気すらないんだよ……。
「私、真凜ちゃんみたいになりたい……」
私の小さな願いにさらにぎゅっと密着度が増した。
もうほんとだめだな私って。
さっきまでゆずちゃんに迷惑かけたくないってあんなに思ってたのに結局こうして助けてもらっちゃってる。
「……いるもん」
「え?」
その驚くほどか細い声に思わず聞き返した。
「ウチがいるもん!」
ゆずちゃんは、ぷくーっとリスのように頬を膨らませて明後日の方向を見ている。
「……えっと、ゆずちゃん…………?」
何か気に触ることでも言ってしまったのだろうか?
ついさっきまであんなに頼もしかったのに。
「ウチが、いるんだからぁ――!!!」
大きな瞳に涙を溜め、爆速で私から遠ざかる背中を見つめながら。
「え―……この雰囲気でどっか行っちゃう……?」
危うく本日3度目の号泣に入る所だった……。
◇
「はぁー、疲れだー」
お風呂から上がった私は自室のドアを開け電気をつけた。
そして、迷わずベットにダイブ。
ぼんやりと頭上のLEDライトを見つめる。
浮かび上がる今日の光景。
本当、散々な1日だと思う。
一生懸命勉強したテストはビリだわ、掃除させられるわ、ギャル3人組からいじめられるし……。
ちくしょう!
こういう日は「アレ」をするのに限る!
私は一刻も早くこの現実から目を逸らすためにアプリを起動。
そのアプリの名は、『Legendary idol project』。
通称『LIP』。
配信されてから僅か1年で、若い世代から幅広くの支持を集めているアイドルSNSアプリ。
アプリにダンス動画を上げたり、ちょっとしたアピール動画を上げられたりする。
勿論、それだけではない。
お気に入りのアイドルに直接メッセージを送ったりして交流することだってできるし、動画に対して評価を送り応援することだってできる。
まぁ、簡単にいうと小説投稿サイトのアイドル版みたいな。
本当にシンプル。
故に、コレだけ普及したのだろう。
そして、私の推しは勿論……
「あ、マリンちゃん新しい動画あげてる!」
大人気jkアイドル『マリン』。
さっきまでのテンションはなんだったのやら。
早速その動画を再生する。
『こんにちは。水平線のその向こうへ、マリンです』
はぁぁぁぁ!最っ高!
やっぱ清楚だわ!
凛とした声も、艶やかな青髪も、モデルのようなスタイルの良さもその全てが完璧にマッチしてる!
『皆さんに1つ、ご報告があります』
ええ……なんだろう……。
彼氏?引退?
もし男だったらそいつのちょんぎるからな。
『私、マリンは、今年のレジンダリー・ライブでの優勝を目指します!』
「え!?マリンちゃんが!?」
レジェンダリー・ライブ。通称『LL』。
簡単にいうと年に1回開催されるアプリ内でのイベントで、そこでランキング上位になれば決勝に出場。
そして優勝すればなんと、芸能事務所に所属が決定し、マネージャーが着き、プロとしてアイドル活動できるのだ。
このイベントの規模がとてつもなく大きい為、多勢の固定ファンが着きスタートダッシュも半端じゃない。
ある意味、誰でも夢を叶えられる可能性を秘めている人生逆転システムだ。
規模で考えると倍率はすごいけども。
『不安ではありますが、決心した以上全力で頑張りたいと思いますので応援よろしくお願いします!』
最後に礼をしながら言うと動画はそこで止まった。
「マリンちゃんは満足してなかったんだ……」
あれだけの歓声を受けてもまだ上へと行きたいと願う彼女の強さはやっぱりかっこいい。
マリンちゃんのその覚悟に胸が熱くなるのを感じた。
◇
「転校生、ですか?」
「ああ、転校生だ」
今日は掃除をしたら施錠してこい、と言われた為帰る前に職員室に立ち寄ったところで私は転校生、という不思議な響きに思わず食いついた。
「へー」
「反応薄いな」
「まぁ、多分関わりとか無いと思うんで」
「ほー、なぜそう思う?」
「だって、転校のテストって難しいですよね?うちだって進学校ですし。そんな優秀な人はわざわざ私に近寄りませんよ」
「その理論で言うと茜はどうなるんだ?成績優秀な生徒だが?」
「ゆずちゃんは……ほら、アレですよ、物心つく前からってやつですよ」
「幼なじみ、な」
「それぐらい知ってますよ……」
私が目を逸らすと先生は愉快そうに笑った。
「な、何ですか?急に?」
「いや、これは面白くなりそうだなってな」
先生がニヤリと笑うと目は細くなり弧を描いていた。
き、気持ち悪!
まさかこの人……幼なじみ萌え?
「誰が幼なじみ萌えだ?」
「まさかのエスパー!?」
「お前は顔に出やすいんだよ」
いや、幼なじみ萌えが分かる顔ってどんな顔だよ!?
え、私そんな顔してる?
それはそれで、ショック……。
「まぁ、あれだ、明日野」
「はい?」
「自分はダメなやつだ、なんて思いすぎるなよ。良いも悪いもそんなもの人生においては刹那でしかないんだかな」
「はぁ」
「解答用紙見ればどれだけやったのか、なんて一目瞭然だからな」
本当に、この先生のことが嫌いだ。
いつもは気だるそうにしてるくせに生徒のことはしっかりと見てる。
どれだけ優しいんだよ。
「だからまっ、頑張れよ」
ぽんっと頭の上に手を置かれた。
思ったよりもその手は大きくて重かった。
「気安く触らないで下さい訴えますよ?」
「急な切り替え凄いね!?」
◇
「しまった……」
職員室を出てすぐ帰ろうとしたが重要なものを忘れていた。
ガバンを教室の前に置き忘れてしまった。
窓の鍵閉める時に置きっぱなっしにしてしまった……。
放課後は加瀬さん達と高確率で会うからあまり校舎をうろつきたく無いんだよな……。
けどそのままにして私物に悪戯されるのも嫌だし……。
「はぁ―」
気が重い。だがしょうがない。
そう自分に言い聞かせ重い足を少しずつ前に出し歩き始めた。
◇
あと一つ曲がれば教室前。
ふと窓越しに目的地を覗いてみる。
ど、どうかな……。
誰もいないといんだけど……。
祈るような気持ちで目を凝らして見るとニョキッと影が動いた。
「ッ!?」
だ、誰かいるよ〜〜!
それが加瀬さんなのか確かめるためにもう一度覗いてみる。
髪の毛は何色か、髪型は?
身長は?
ダメだ、窓に夕陽が反射してあの特徴的な髪が見えないよ……。
身長は……同じぐらいだぁ……。
私は泣きそうになるのをグッと堪えて決意をする。
「でも、確かめもせずに逃げるのはダメだ……」
ゆずちゃんが心配してる。
これ以上心配なんてかけさせてくない。
まずは行動を少しずつでもかえてかなきゃ。
曲がり角まで、
3歩、2歩、1歩。
そしてーーーー
「あの、それ私の…………」
心臓が高鳴ったのが自分でも分かった。
でも、目の前に何があるのかは分からなかった。
いや、理解が追いつかなかった。
青い瞳に、腰まで伸びた淡い青髪。
私よりもちょっと大きいくらいの身長なのに、スカートから伸びた足はとても綺麗で。
今時珍しく制服をピシッと着こなしていて。
でもそれが逆に彼女の美しさを引き立てていた。
凛と真っ直ぐに刺さる視線がまるでレーザービームのように私の心を撃ち抜いた。
「はい、何でしょうか?」
天然水のように透き通った声がこのシンとした廊下の空気を震わせた。
「マ、マリン、ちゃん……?」
やっとの気持ちで振り絞った私の声は震えていた。
転校生って、マリンちゃんのこと!?
あまりの偶然、いや、奇跡の出来事に私の頭はシャットダウン寸前だった。
信じたい気持ちと、これは夢だと言ってる私が心の中でケンカしてて訳が分からなかった。
でも、これだけは鮮明に浮かび上がった。
この気持ちだけは。
私だけの大切な気持ちだから。
それを言葉にするのなら。
何だろう、
すっごくキラキラしてる!
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