第3話 セブルスの頼み

「結婚なんていつだっていいじゃないか。私がさっさと子どもを産んだのは、家系的に仕方なかったってだけの話なだけだし」


 一方、まじない師などという、怪しい商売をしているシェスカも結婚相手は簡単に見つからない。結ばれたいと思う者はいないだろう。その上、彼女の祖先はサーガス王国の人間。現在住んでいるジルコ王国とは関係が悪いため、関わりたくないだろうし、人によっては排除したい存在である。


 それでも、シェスカはセブルスの家系に代々現れてしまう右手の異能を、ずっと管理しなければいけない一族として生まれてしまったので、跡継ぎを作らなければならなかった。つまり彼女は使命の為に男と寝て、子を成したのである。


 そのため、人々が思うような幸せな恋愛や結婚を経験したことはない。

 ただ、自分の相手になってくれた男が嫌いだったかというとそうではなく、とても好ましい人ではあったし、その思いは年を経るごとに強くなる。もう、会うこともないひとではあるが、大切には思っている。


「仕方ないってなんだよ。ちゃんと可愛い子どもだっているじゃないか」


 セブルスの意見に、シェスカはちょっと驚きつつ、嬉しそうに笑った。


「何だよ……」

「いや、セブルスにしてはまともなこと言うなぁって思って」


 そう言って、革を縫う手を再び動かし始める。


「はいぃ? まるで俺がいつもまともじゃないことを言っているみたいじゃないか」

「阿呆なことばかり言ってる」

「なんだとっ」

「まぁ、まぁ。とりあえず結婚はいつになるかは分からないけど、上手くはいっているんだろ?」


 セブルスの母からの情報によると、付き合っている女性がいるという話だった。ただ、この話を聞いたのが1年くらい前だったので、もうとっくに結婚しているとばかり思っていたのだが、どうやらセブルスは彼女との時間をとても大切にしているらしい。


「えっ?」

「彼女とさ。上手くいっているんだろう?」


 セブルスが急に照れ臭そうにする。


「え? あ、うん……」

「じゃあ、さっさとプロポーズしちゃえよ」

「何でそうなるんだよ!」

「いい子は早く捕まえておいた方がいいと思って。それとも他に気になる子でも?」

「いないよっ!」

「あっそう」

「ったく。俺のことはもういいから」

「何だよ、からかいがあるのに」

「お前は年上を弄びすぎだ」

「弄んではいない」


 シェスカの最後の反論には反応せず、セブルスは椅子の上で姿勢を正した。


「あのさ、シェスカ」

「何だよ、改まって」

「実は、他にもシェスカに用事があって」

「面倒なことは嫌だよ」

 すると、セブルスは急に真面目な顔をする。

「ちょっとお願い事があるんだ」

「……何」


 シェスカはちらりとセブルスの顔を見て、糸を力強く引っ張った。


「伯爵家の御令嬢のことを診て欲しくて――」


 セブルスが言い終わらにうちに、シェスカは嫌そうに返事する。


「はぁ? なんで私が伯爵家の御令嬢の姿を拝まなくちゃならないんだ」

「そういう『見る』じゃなくて! 分かっているくせに……目を診て欲しんだって」

「目ぇ? そんなもん眼科に診せなさいよ、眼科に。お抱えの腕の医者くらいるだろ」

「それが出来ないんだ」

「何で」

「その子、瞼が開かないんだよ」

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