第2話 生まれたときから幼なじみ




「彩花姉ちゃん、うちの母さんからお昼ご飯に買って行けって。弁当買ってきた」


 玄関のチャイムが鳴って、この声の持ち主がいてくれたから、私は学童に通わなくて済んだんだ。


謙太けんた君ありがとう。ごめんね、こんなになっちゃってて」


 ダイニングテーブルの上にお昼ごはんだとお弁当を用意してくれた。斉藤謙太君は、私より二つ年下。


 今も同じ高校の後輩ではあるけれど、私の小島家と謙太君の斉藤家はそんな短い付き合いじゃない。


 遡ればどこまで行くかと言えば、お母さんたちの小学生時代まで。そこからの友だち同士で、二人とも同じ職場。


 同じ団地に住んでいるから、謙太君が生まれたときからいつも一緒にいる。遊ぶときもいつも一緒だったし、お互いの家庭で何かあれば預かったり、お母さんたちも仕事を調整してくれたり。


 謙太君が小学校に上がる頃には、私も小学3年生。お互いの家を交代に行き来して、お母さんたちを待つなんてことが普通になったから学童問題もなんとかクリア。


 さすがに高校にもなると、一緒に留守番てこともないけれど、何かとお互いに協力しながら過ごしているのが普通になっている。


 そう、学校では「小島先輩」と呼んでくるけど、二人だけのときは小さい頃から「彩花姉ちゃん」となる。ずっとこれだから気にすることもなかった。


「どうしたのこんなに散らかして?」


「探し物してるんだけど、見つからないんだよね」


「えぇ? 何を探してるの?」


 作業を中断して、二人でテーブルに置かれた近所のお総菜屋さんで買ってきてくれた唐揚げ弁当の蓋を開ける。


 女の子同士だと、カロリーとかダイエットとかを理由に少ない量のメニューを買ってくる子も多いけれど、謙太君は昔からそういうことはしない。いつも同じものを用意してくれるから、私も好きなものを気兼ねすることなく頼むことができる。


「私、卒アル委員になっちゃってね。参考にならないかなって。お父さんは実家が遠いから置いてきたとして、お母さんのがないか探してたんだけど……。持ってきてないのかなぁ」


 私たち二人とも、両方の家がいまの横浜市ではなく、少し離れた横須賀市で高校時代までを過ごしていることは分かっている。


 お母さんは今年で40歳になるから、私の年齢を考えると、私を22歳で産んだことになる。そうなると、お母さんは高卒か短大卒なんだと思っていた。


 お父さんもお母さんも当時のことはあまり話してくれていないけど、二人が恋愛結婚だというのは、お爺ちゃんお婆ちゃん、そして謙太君のお母さんである千佳ちかさんからも聞いたことがあった。でも、肝心なところはまだ聞けていない。


 そもそもお父さんとお母さんの年齢差が9歳もあることを考えると、どう知り合ったのかも気になるところだ。


「うちの母さんのでも同じだと思うから、どっかにあった気がした。探しておくよ」


「そっか、高校も同じだって言っていたもんね」


 ごはんの後、謙太君は一緒に家の片付けを手伝ってくれた。


「じゃあ、見つかったら持っていくよ」


「うん、いろいろありがとう。千佳さんにもよろしくね」


「それじゃまた明日な」


「うん、バイバイ」


 そう、これがまさかあんなことに発展してしまうとは、私はその時まだ考えてもみなかった。

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