【外伝】アルビレオのゆびきり

小林汐希

第1話 見つからない卒業アルバム




「あれぇ、もう持ってないのかなぁ。それとも実家なのかな……」


 もうかれこれ、2時間くらい。


 私は家中の収納を探して回っている。まるで隠されているへそくりを探している家捜やさがしか泥棒気分。


 私、小島こじま彩花あやかが探しているのは両親どちらかの卒業アルバムだ。どちらかといえばお母さんの方が年が近いから、狙いはそっちなんだよね。


 18歳の高校3年生で、今は11月末と受験期も真っ直中だけど、そこはまだ附属高校というだけあって内部進学が多いから、まだ一般受験組に比べれば穏やかな空気が流れている。


 でも、何もせずにエスカレーター式に進学できるかと言えばそんなことはなくて、普段の成績の積み重ねがポイントになって推薦の点数に加わるというシステムだから、逆に最後の追い込みとか、入試本番での一発逆転という荒技が使えない。


 そのシステムは1年生の頃から分かっていたもん。


 結局3年間生徒会に推薦されて所属していたから、部活は入れなかったけれどそれはそれで経験は積ませてもらったと思う。


 その成果と言うべきか、今月の頭にあった第1選抜の推薦試験で、無事に合格通知を受け取った。


 中学も高校も特定の彼氏なし。気にしたこともないけれど、周囲からは「彩花はお洒落すれば絶対可愛い。モテると思うのにもったいない」と言われたこともある。


「いいよねー、彩花のお父さんはベテラン先生だもんねぇ。塾代要らないもんね」


「そうかなぁ、お父さんあんまり家では勉強のこと言わないからなぁ」


「お母さんは?」


「お母さんは先生って言っても、子ども園の相談員だもん。勉強とはまた違うし」


 そう、私の両親はどちらも大きな括りでは教育関係者だ。


 陽人お父さんは大手予備校で数学を主な担当にしている。大教室だけでなく、それ以外にも少人数や個別指導のクラスでは他の教科も見ることもあるとか。


 友達に返したように、お父さんの授業なんてものは受けたことがない。休日や夜に宿題の難しいところを聞いたりしたことはあるけれど、お父さんはヒントをくれるまでで答えは教えてくれない。


 お母さんに「難しかった」とボヤいた時には、「昔から先生はあのやり方だからね」って笑っていたっけ。


 そんな感じで、私は予備校に通ったこともお父さんの授業を受けたことも無いけれど、すごく分かりやすいらしい。個別指導は凄い人気であっという間に全ての時間が埋まってしまうと友だちから聞いた。


 一方の結花お母さんは、私を産む前からお手伝いをしていた児童センター兼、子ども園のカウンセラーというお仕事をしている。


 若いお母さんたちの子育て相談や、園での就学前の子どもたち向け授業のサポートなどもしていて、こちらも大人気なんだって。


 昔と違って、今は子育ての仕方にもいろいろと道があるから、相談内容も千差万別で、1日中喋りっぱなしなんてこともあるとか。


 だから、私は生まれて半年からお母さんと同じ施設内の保育園に入っていた。


 いつも夕方になると、お母さんと一緒に団地の部屋に帰ってきて、お父さんの帰りを待つ生活だった。


 こんな共働き家庭だけど、小学校になっても学童教室に行くことはなかったのには、年頃のみんなの前であまり大きな声で言えない理由がある。


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