第38話 理事長登場
生徒の乗った馬車は許可証がなければ、例え王族だとしても正門からは歩かなければならない。
講師は別なので校舎の入り口に乗り付け、御者が車庫に馬車を戻しに行った。
ジッデルの案内で会議室に直行した。
そしてドアの前に着くと即時にノックした。
「ジッデルです。受験者の晃司君と従者の姫騎士ネリス嬢を連れてまいりました」
「構わんから一緒に入るように」
晃司は中に入りお辞儀をしたが中断させられた。
「時間が惜しいから挨拶など不要だ。君が晃司君で、ここに来る事になった理由は聞いているね?」
その者の中央隣に座る白髪混じりのおっさんが仕切っているようだ。
「私が晃司で、こちらが私の従者の騎士ネリスです。時間が勿体ないとの事ですから、時間短縮するのにどなたか過去20年分の試験問題と回答を用意して貰えませんか?」
先の仕切っていた者が若い講師に指示を出す。
「・・・資料室にあるはずだから、持って来てくれないか?」
「これで良いかね?」
晃司は頷く。
「君に掛けられた嫌疑の質疑の前に1つお詫びをせねばならない。実技試験で君が魔力暴走を起こし掛けていた件だが、もう聞き及んでいるだろうか?」
「校長、私が説明しております」
「うむ。受験者晃司殿、相すまなかった」
深々とお辞儀をしたので晃司は焦った。
「だ、じゃい丈夫ですから、その、よひてください。それよりも、それについてひとつお願いしたい事があります」
晃司は予測外の事に少し焦り舌を噛んだ。
「なんだね?聞くだけは聞くから言ってみなさい」
「はい。合格発表や何かの機会にその旨を告知して欲しいんです。今のままだと、私が悪者になってしまいますから」
「もっともな話だ。殿下の警護の者が魔力暴走をしたのは体面的にもよくないからね」
「ありがとうございます」
「次に筆記試験についてだが、君が不正をしたとされる。具体的にはどうやってか問題や回答を入手し、それを覚えていたから満点だという話がある。それについて申し開きはあるかね?」
「申し開きはしませんが、私は不正はしていません。ただ、計算問題以外は答えを知っていたのは間違いありません」
「認めおったぞ!恥を知れ!」
「どうやって入手したのよ!」
「殿下の顔に泥を塗る気か?」
騒ぎが広がる。
「静粛に。不正を認めるのだな?」
「いえ。誰でも知り得る内容ですから」
そうしていると、慌てて過去問題を取りに行っていた講師が戻ってきた。
「恐れ入りますがどなたか、今年の問題と私が今から言う事を比べて下さい」
「何をするのだ?」
「校長、私は馬車の中で話しましたが、彼は不正はしておりません。それを今から証明するだけですし、直ぐに済みますよ」
「ジッデル先生がそういうなら話を聞こう」
「では1問目についてですが・・・」
各問題がどの年数の問題か全て伝え、確認した者が驚いていた。
「ま、まさか問題が過去問題のみから出ておったのか!」
「まさか過去問題を全て覚えているのか?」
「はい。適当に取った問題を読み上げて頂ければ答えますよ」
そうして数問のやり取りで晃司の話が本当だと分かり皆唖然としていた。
「過去問題は誰でも入手出来ます。過去20年分を暗記さえすれば上位に入れるだけの点数が取れると思いますよ。計算問題は関係ありませんが、過去問題にない国内外の話は多分分かりません。歴代の国王陛下の名を言えとか、戦争がいつ起こったとかは」
校長の隣の1番偉い人が重い口を開けた。
「晃司君と言ったね。私は当王立アカデミーの理事長代理をしているライオネルリックだ。休んでいた所申し訳なかった。君に掛けられた嫌疑は晴れた。また、疑いを掛けてしまい悪かったね」
「いえ。分かって頂けたのでしたら問題ありません」
「誰も不服はないな。それにしても凄まじい記憶力だね。お詫びにこれを持って行って欲しい」
そう言って足元に置いていた鞄から箱を取り出し、その中からゴルフボール程の玉を出すと晃司に手渡した。
「今回の事はアカデミー内部で対処したい。出来れば口外しないで欲しい。これはお詫びと、嫌疑が掛けられた事を無かった事にしてもらうその対価にと思うが駄目かな?」
「勿論構いません。これからお世話になる先生方と揉めても仕方がないし、こうやって他の生徒よりも早く先生方とお近付きになれたので無駄な時間では無いですよ。ジッデル先生に顔と名前を覚えて貰った事の意味の方が大きいですね。ジッデル理事長、これからも宜しくお願いします。所でこれはなんですか?」
「いつからバレていたんだい?」
「私の話を聞き入れてお詫びを言った時に、これはあれだ、理事長自ら下っ端を演じて見に来たんだなと。1番の違和感は御者の方がドアの開け閉めをしていた事です。それに弓を放った事は無いですよね!?本当のジッデルさんと言うのは理事長代理さんですよね?」
「これは脱帽だね。よく分かったね。その玉は学園に1つと私が個人的に持っていて、これは私の持っているやつだ。私は既に使っているからもう使えないんだ。功績の有った者へ与えるつもりだったのだよ 。これはダンジョンの最下層のボスを倒すと稀に出る加護玉だ。これは冒険者登録の時に得られる加護をもう1つ得られるというレア中のレアだ」
「えっ?そのような貴重な物を貰っても良いのですか?」
「このアカデミーの意義は勇者様の仲間を育てる事にある。君の魔力とその記憶力は勇者様の役に立つだろう。学園にある玉を勇者様に差し上げるので気にしなくても良い」
「はあ。頂けるのでしたら遠慮なく頂きますが、俺にそんな資格があるか分かりませんよ」
「君には期待しているよ。アモネスの力になってあげてくれ。あの子はこの国の為に真っ先に人身御供として勇者様に抱かれるのも厭わないと覚悟し、勇者召喚をしたのだよ」
「えっ?理事長じゃないの?うそーん!」
「晃司君、満点を取った割に世の中を知らないね。この御方は間違いなく理事長ですよ。ここが王立と名が付いているのを忘れてやしないかい?つまり理事長=国王とは思い付かなかったのかな?」
晃司はその場に崩れ落ち、ひぃーと唸ったのであった。
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