第37話 再びアカデミーへ
晃司とネリスはジッデルと名乗る講師が乗ってきた馬車でアカデミーに向かう事になった。
実技試験の時に呆けていて魔力を込めすぎており、試験会場を混乱の渦に陥れた負い目がある。
それもあるが、酔っていたのもありアカデミーに来いという事に反射的に行きますと言ったのだ。
「晃司と言ったな、貴様我らが合否判定に苦慮しておると言うのに、呑気に酒を飲みおって!学生が飲酒などけしからん!」
「ジッデル殿と言えば良いのだろうか?私達は試験を受けただけであり、まだアカデミーの生徒ではない。ずっと試験に向けて頑張って来て、その慰労会をしていたのですよ。年齢も飲酒を認められる歳ですから咎められるいわれはないと思うのだが。確かに、アカデミーの規則で生徒は飲酒、性行為、喫煙が禁じられているのは我らも知っている。だから勿論生徒になれば酒も飲まない」
「ふん。弁えているなら良い。しかし何をやったのだ!?受験生の半分は時間がなくて最後まで出来ないのに、開始15分で終わらせ、しかも全問正解だとは!」
「俺がまともに勉強したのはこの世界の歴史位で、後は暗記できる内容だぞ。それと過去問題。あんなんで試験が成立するのに驚いた位だぞ」
「なっ!?言うに欠いて簡単だと言うのか?我ら講師でも時間内に全問正解するのは厳しいのだぞ」
晃司は今更だが、この世界の学力が低いのだと知らなかった。
正直、小学校で学ぶレベルの問題だったので驚いた位だ。
「晃司様、このネリスも他の者よりも早く回答出来ましたが、晃司様に言われたように、よく分からなかったり時間が掛りそうなのを諦めて先に進んだからですわ。お陰様で自分で言うのもなんですが、上位に入っていると思いますわ。最後の方に簡単な問題が多くあり、そちらは自信がありますから。しかし、あれらを全て正解するとはこのネリス驚きました。一生お仕え致します!」
「ネリスは大袈裟だねぇ。試験対策は解けない問題は後回しが鉄則だよ。何故皆それを知らないかなぁ」
「ほう、仲間にそれを教えていたのか?」
「アモネス殿下、その付き人のライラ、俺の相棒のラミィとその従者となるエリーに伝えている。それと多分殿下の取り巻きと思われる3人の女性と、その従者には殿下からアドバイスがされているんじゃないのかな?」
「ぬう。確かにその者達は序盤の回答がないが、後半は全て書かれていたな。って益々怪しいではないか!?」
「あのなぁ、問題用紙は持って帰る事ができるから、皆独自に自己採点するのな。だから過去問題が出回っていて、少なくともこの10年分は序盤は時間が掛かる問題、終盤に簡単なのを入れているんだぞ。過去問題を読み解くとそのような結論になるのが普通だと思うぞ。と言うか、それを知らないのは試験を舐めきっていると思うぞ」
「ぬう。確かに、例年試験問題を作る時に前年の内容を参考にしているそうだが。うむ。あながち貴様は不正をしたというのではないのだな」
「1つ言っておくと言うか、ネタバラシをすると、今回の問題は15年前と、12年前の問題をそのまま持ってきていたぞ。それもあり早く解けたんだがな。以前のも何年か前の問題の中から組み合わせただけだぞ」
「なっ!?本当か?」
「確かに見た覚えのある問題でしたが、流石に20年分の問題と回答を覚えるのは無理ですわ」
「では過去問題から問うぞ、初代国王陛下が最後に統一した国の名は?」
「シトラル。16年前の出題だ」
「なっ!では2代目が亡くなった時の摂政の名は?」
「ヤーリク。7年前の出題だ」
「ま、まさか覚えているのか?」
「流石に計算問題は毎回違うようだが、似た内容だし簡単過ぎて覚えるまでもない。けどな、文章問題が過去問の使い回しってのは感心しないな。もし違ったら流石に答えられたか怪しかったがな」
「う、疑って悪かった。恐らく同じような事を聞かれると思う。正直に答えて貰らった方が良いと思う。それにしても凄まじい記憶力だな」
「そういう事か。確かに文章問題については予め答えを知っていたという疑い自体は的を得ているけど、その理由は違うからね」
道中、ジッデルから色々な質問をされたが、全て何年前の問題にあったかと付け加えており、脱帽していた。
「こりゃあ参ったな。君は凄いな。貴様とか言ったりして悪かったね」
「いえ。話せば分かる先生で助かります。少し気になる事があるのですが、良いですか?」
「私に分かる事や答えられる範囲なら構わないが」
「錬魔法場って壊れちゃったけど、お金ってどれ位請求が来たりしますでしょうか?あまりお金がないんですよ」
「ぐはははは!さっきまでと違い妙にオドオドしているじゃないか!くくく。心配するな。あれは魔導具の不備だ。何か幻覚や過去の事を思い浮かんだりしなかったか?」
「あっはい。数日前の事を思い出していました」
「まさかの欠陥品でね。新製品に飛びついたのだけど、ある程度の魔力を込めると幻覚等が見え、爆発するまで魔力を込め続けるようだ。だからあれは魔導具の所為だから気にしなくても良いぞ。中々年相応なところもあるじゃないか!気に入ったぞ!何かあったら私を頼りなさい!また、講師としては下っ端に近いから頼り甲斐がないかもだけどな」
最初こそ高圧的な態度だったが、少なくとも話が通じ、誤解だと分かると目下の者に対してちゃんと謝れる所に晃司は好感を持てた。
そうこうしていると、アカデミーに到着し、晃司は本日2度目となる王立アカデミーに足を踏み入れるのであった。
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