第16話 警戒と戦闘

 晃司はまだ待ち合わせの時間に少し早いなとは思うが、ラミィとの待ち合わせ場所に向かい、彼女を待つ事にした。


 暫く待っていたが、予定時間の少し前に荷物を一杯持ったラミィが現れた。

 救援物資として主に食料品を持ってきてくれたのだ。


 それらを受け取り感謝をしつつ薬草採取に向かう。

 話は道中でとなり、別れてからのお互いの事を話して情報交換をした。


 有り難い事にラミィは晃司の心配をしてくれており、真っ先に昨夜は大丈夫だったのかと確認していた。

 晃司は心配された事に少し照れていたが、ラミィは真剣そのものだ。


 焚き火をして休んだが特に何もなく、明方まで寝られたので疲れは残っていないと伝えた。


 ラミィも何もなかった事がいかに幸運であったのか分っていなかった。


 きのうはギルドでエリーに晃司の事を聞かれたが、今日は用事があるから1人で来たと伝えると、それ以上は何も言ってこなかった。


 それとあの王女様が何者だったのかを探ってもらっていた。


 この度の召喚を実行した責任者なのだそうだ。

 尤も国王の指示の下で執り行ったのだろう。


 それ以上は怪しまれる為に聞けなかったと。

 ギルドに王族が来た事については、召喚した者が行方不明になってしまい、その者を発見すべくギルドへ協力要請をする為に赴いていた。 

 俺達は偶々その場にいたのだという。


 エリーの話だと、あの王女様は従姉妹なのだそうだ。

 あの王女様は妾の子で、卑しい身分の母を持ちながらもその能力から第3王女になっている。

 今回は母方側とはいえ、従姉妹の自分を頼ってきたのだと。

 この辺りは流石にその場にいた当事者の為、聞かない方がおかしいのだ。


 エリーは若くしてギルドの受付嬢をしているのと、女性しか並んでいなかったのだが、それは王女の従姉妹だと知れ渡っていて、下手に口説こうものなら何が起こるか分からないから、男の冒険者が避けているのだとラミィが補足説明をしていた。


 なるほど。要はエリーも要警戒だという事だ。

 そうして前日と同じく薬草採取の場所に来ており、少し場所を変えてスタートだ。 


 昼は宿にお願いして作って貰った弁当を食べた。


 今日も順調で弱い魔物しか出なかった。夕方になり帰り際に野営をする場所をラミィにも見て貰い、その後比較的安全な街道までラミィを送り届け、そこで別れた。


「お願いだから無茶はしないでくださいね!」


 ラミィは心配そうに一言いうと、晃司がラミィの頭をポンポンとした。

 頭を撫でられた事に恥ずかしそうにしながら町へと歩き出し、晃司はその背中を見送った。


 晃司は前日と同じく野営の準備をした。

 薪になる木は近場を取り尽くしたので、少し距離のある所から取る以外は特に何もなく、ラミィからの救援物資のお陰で少しましな夕食を食べる事が出来たが、このような生活は長くは持たないだろうなと感じた。


 タオルや紐を置いていってくれたので助かった。


 ラミィが使っていた汗の染み込んだタオルを含め、指し支えのない物を置いてもらっていたのだ。


 ラミィは薬草採取の時に汗を拭くのに使っていた汚いタオルだからと申し訳無さそうにしていたが、寝床を少しでも快適にするのには有り難いのだ。

 先程野営の場所を見た時に渡されたのでその場で川で洗い、干してからラミィを街道まで送り届けていた。

 勿論女の子の汗が染み付いたタオルをくんすかする趣味はない。

 そのように思われたくないからその場で洗ったのだ。


 それならばと、ラミィはタオル類を追加で買っておくと言っていた。


 疲れが溜まってきている。

 その為にやはり晃司はテントで早々に寝ていった。


 ちゃんとした冒険者なら単独で夜に寝るとすれば、洞窟等で入り口をカモフラージュしたりして塞ぎ、安全を確保してからが鉄則だ。


 また、鳴子をセットし、獣等の接近を知らせるようにしなければならない。


 しかし、そのような話をしてくれる仲間や先輩が晃司は勿論、ラミィにもいないので日本でキャンプをする程度の感覚や認識しかなく、野犬とかはまあ火が有れば大丈夫だろうとしか思わなかった。


 とは言っても、心細いので一応剣は抱えており靴も履いたまま寝ていた。

 また、頭にあの布を巻けばクッション代わりになり、軟らかさも丁度良かった。    

 いや、そうではないのだ!そもそもこのような場所で単独で野営をする事自体が自殺行為なのだ。

 それに、それ小便の染み付いた中古の褌です!

・・・・・

 

 夜中に魔物がテントの周辺を彷徨っていた。


 晃司は熟睡しており、気配に気が付かなかった。

 魔物の気配では起きられなかったのだ。

 日本だと多少外が騒がしくても脅威にはならず、若者や気狂いが喚いている程度ならスルーしているので、今もそんな感じで多少の物音に対して反応しなかったのだ。

 魔物は晃司の存在に気が付いていたが、焚き火に警戒をしており様子を見ていた。


 どれ位時間が経っただろうか?やがて焚き火が消えていく。

 正確には燃え尽きたのだ。


 魔物は恐る恐るテントに近付いていき、1頭が飛び掛かった。

 ワーウルフだった。


 ガサガサガサ!バキバキバキ!と音を立て、テントは潰れる。


 勿論中にいた晃司はパニックだ。いきなり何かがテントの上から覆い被さってきたのだ。


「な、な、なんだ!なんなんだよ!」


 晃司は唸ったが、その声に反応してすぐにそいつはいなくなった。

 そして晃司は慌ててコートとを左手、右手に剣を持って潰れたテントから出るとコートを着た。


 するとそこにはワーウルフがいた。

 晃司はヒィィと思わず唸り後ずさる。


 あの時の魔物だ!


 周りには数頭の姿が見える。

 月明かりが僅かながらあるので、辛うじて見えるのだ。


 やばいやばいと唸り、震えが止まらない。


 へっぷり腰になるも何とか両手で剣を掴み相対した。


 先程テントを潰した個体がグワオー!と吠えて駆けてくる。


 ガタガタと震えながら剣を前に突き出すと、そいつはジャンプしたのだが偶々その剣に飛び込んでくる形になった。

 向こうから来てくれたよ!とフラグが立つ状態に。勿論フラグだ。


 恐怖から目を瞑ってしまったのだが、ぐさりと肉を切り裂く感触があった。

 そしてぶつかられた衝撃で一緒に転げた。

 最初見た時の恐怖から倒す実力も武器もあるのにも関わらず、恐怖から体が竦んでしまったのだ。


 目を開けると、痙攣しながら血を吹き出しているワーウルフがいて、えっ?と思っていると目の前で霧散していった。


「えっ?俺が殺ったのか?」


 いたたた!と立ち上がると他のワーウルフが襲ってきた。


 晃司はまたもや逃げた。

 すると岩場に来てしまい、見上げると崖だったが、その崖を背にして剣を闇雲に振っていた。


 運良く1頭の首筋に当たり、動脈を斬ったようでそいつは程なくして死んだのだが、休む暇もなく次々と現れて来る。


 晃司も左腕を鈎爪で引掛けられ血を出した。

 不思議とあまり痛みはないが握力がなく左手は剣を握れなくなっており、右手で剣を構える。


「くそっ!なんなんだよこいつら!数が多いぞ!卑怯だぞ!1VS1で戦いやがれ!」


 獣に言っても無駄である。

 だが、1頭のみが仕掛けてきた。

 攻撃を躱し躱されていたが、晃司が振った剣が偶々角に当たると、その角が折れてそいつは頭から血を出し数秒で霧散した。

 だが、無情にも晃司が唯一持っている剣は、柄から10cm位の所から折れてしまったのであった。

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