想像以上に
少女はおどおどと俺の様子を窺いながらも、ぺこりと頭を下げる。
「……えっと、初めまして。シェリ・デュエイルム……です。あなたのお名前は、お父さんから聞いて……いました。その……会えて嬉しい、です」
大柄で猛禽のような印象を思わせるアッシュとは真逆に、シェリは体格が小さいことも相俟って、まるで草食の小動物みたいな雰囲気を醸し出していた。
――同じ髪色、同じ目の色なのに、ぱっと見だとあまり親子とは思えないな。
性格面からしてもそうだが、アッシュがこんがりと焼けた褐色の肌をしていたのに対して、シェリの肌は潤いをたっぷりと含んだような乳白色だということも、その一因になっている。
だけど、シェリから感じ取れる魔力はどこかアッシュと似ており、やはり親子なのだと認識を改めるまでにそう時間はかからなかった。
そういえば、アッシュの娘ということは、彼女と俺は従姉妹……の間柄になるのか。
……なんていうか、アッシュを見た時よりも実感が湧いてこない。
まず叔父がいるなどと微塵も考えていなかったというのに、更にその子供がいるなんて想像がつくわけが無い。
しかも雰囲気だけだと、あまりアッシュの面影を感じさせない容姿をしているのだから、尚更そういえるだろう。
むしろ雰囲気だけでいうのなら、俺の方が似ているよな。
アッシュほど肌は黒くはないけど、逆にそれくらいしか挙げることもないし。
などとつらつらと考えていると、隣でニコがにまにまと俺とシェリを交互に視線を向けているのに気づいた。
「……どうかしたか?」
「いえいえ、なんでもないですよ〜。ただ、お互いずーっと見つめ合っていて、まるでお見合いしてるみたいだなー、と」
「「――お、お見合いっ……!?」」
示し合わせたかのように俺とシェリの声が重なる。
すまない、と一言詫びを入れながらすぐさまシェリから顔を逸らし、少し間をあけてからゆっくりと戻す。
シェリは半分顔を俯かせていたが、熟れた林檎のように頬を紅潮させていたのは一目で見てとれた。
「じろじろ見るつもりは無かったんだ。ただ、二人も身内に当たる人間がいるなんて思ってもいなかったから……」
「い、いえ……私こそ、はしたなくてごめんなさい。あまりにもお父さんに似ていたものだから、びっくりしてつい……」
ここで言葉が詰まって会話が止まってしまうが、またじっと見つめでもしていたらまたニコに揶揄われそうなので、そっと視線を外すことにする。
まあ、それでも結局ニコが目を細めていることには変わらなかったのだが。
誰にも悟られないくらいの小さなため息を溢すと、キースが一つ咳払いをしてみせた。
「話の腰を折るようですが、ニコさん。今回の依頼で厄介そうなのはありますか? あるようなら早い内に片付けておきたい」
「厄介そうなのですか。うーん……ランドワームの目撃情報はないから、強いて挙げるとしたらサーストウルフの群れの討伐くらいですかね。最近、よく街道に出没していて、襲われたって被害報告がちらほらと上がっているんですよ」
「なるほど、サーストウルフですか。大した魔物ではないですが、被害が出ているのなら早急に対処した方が良さそうですね」
サーストウルフって……道中で襲ってきた魔獣のことか?
確か、行商人がそう呼んでいたはずだ。
「あのさ……多分だけど、そいつならここに来る間に倒したぞ」
「えええーっ!? ジェイクさんがですか!? え、嘘じゃないですよね?」
「なんで嘘をつく必要がある? 証拠になるかは分からないけど、爪とかの素材は幾つか剥ぎ取ってある」
冒険者組合から討伐任務を受注した場合、討伐した証拠を示す為に身体の一部を剥ぎ取って提出する必要がある。
今回の場合、任務が関係なかったから死体をそのまま放置しても問題なかったが、冒険者をしている習慣からか自然と剥ぎ取りをしていたのが功を奏したようだ。
それに、魔物の素材は状態が良ければ、売るとそれなりの金にもなる。
だから任務関係なしに倒したのなら、剥ぎ取っといて損はなかったりもする。
「ほう……君がサーストウルフを。でしたら、少し拝見させてもらってもよろしいですか?」
「ああ、構わないが」
隣で驚愕したままのニコを横目に、袋の中から剥ぎ取っておいた魔獣の爪や牙を取り出し、関心を露わにしながらこちらに近づいてきたキースに手渡す。
「……ふむ、どの部位も目立った傷や欠損はなし。これは武器で攻撃を受け止めることなく倒したと見るべきか」
キースは受け取った魔獣の素材をまじまじと観察しながらボソリと呟いてから、視線を俺へと移した。
「失礼ですが……貴方の冒険者のランクを伺っても?」
「……Eだ」
短く答えると「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げたのはヴァンだった。
それと声には出していないが、マリナとシェリも目を丸くしていた。
「いやいや、冗談だろ? サーストウルフは討伐推奨はCランク以上だぞ! それをEランクの冒険者が一人で倒せるはずがねえって!? そりゃあ、ニコもびっくりすんのも当然だわ!!」
「Cランク以上……!? そうだったのか」
「しかも知らなかったのかよ!? あんた、それでよく生き延びられたな!」
半ば呆れたように肩を竦めるヴァンの傍らで、キースは一切動じることなく何かを考え込むように腕を組み、口元に手を当てている。
それから少し経って俺のことを見据えると、ゆっくりと口を開くのだった。
「なるほど、君に興味が湧いてきました。もし差し支えなければ、これから一つ任務に付き合っていただけませんか? 君の実力をこの目で直に確かめてみたい」
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