【幕間.Another View;高嶋汐音】

 「さて、と。今日はコレを見れば終わりかな」


 夕闇が迫る生徒会室で、女生徒──この学校の生徒会長を務める高嶋汐音(たかしま・しおん)は、「うーん」と伸びをしながら机の上に残った用紙を一瞥する。


 恒聖高校の生徒会長の任期は、通常は2年生の5月下旬から1年間だ。

 汐音に関しては、“奇跡の改革”を成し遂げた名会長ということで、9月までの続投を希望する声も多かったが、「イレギュラーな前例を作るのは好ましくない」と、彼女自身が辞退していたため、残る任期はあと一月半ほどになる。


 「こっちは部費の陳情、こちらは故障した機材の修理か」


 変わり栄えのしない日常的な書類ばかりだが、それでもこういう部分を蔑ろにしては組織というものが立ちいかないことを、この少女はよく理解していた。


 「あら……?」


 その中に1枚混ざっていたのは“新同好会設立申込書”。


 恒聖高校に於いて、基本的に同好会を立ち上げること自体は難しくない。4人以上の会員を確保し、かつその同好会の目的が「学生としての公序良俗に反しない」と認められれば、即日成立が認可されるのだから。

 もっとも、公序良俗云々の部分を判断するのは生徒会で、もっと言えば、最終的には生徒会長たる汐音の承認印が必要だが。


 とは言え、汐音が同好会の設立を拒んだのは、これまでの任期中に1回のみ。それも“美少女ゲーム同好会”というニッチ過ぎるサークルの設立に関してのみだった(ちなみに、それと別にゲーム研はすでに存在する)。


 その意味では、この同好会の申請書が却下される見込みは少ないのだが……。


 しばし、その紙に目を通していた汐音は、ポンッ! と承認印を押しながら、ニヤリと笑う。


 「──ちょっと、おもしろいコトになりそうかな?」


 それは、「恒聖高校の聖母(マドンナ)」と呼ばれ、全校生徒の憧れの的である少女には似つかわしくない、骨太で人の悪い笑顔だった。


-To Be Continued?-

────────────────────

次回は「その5」になります


<おまけの人物紹介>


●大滝廉太郎(おおたき・れんたろう)

主人公。高校1年生・男子。自称「どちらかというと頭脳派」、ただし学校の成績は中の上程度。(本人的には不本意ながら)父親の影響でヲタ知識高め。ゲーム(おもにRPGとギャルゲー)好き。容姿や運動能力は平平凡凡(ただし悪いわけでもない)。反面、精神的ズ太さは人外の存在にも感心されるほど。比較的常識人のツッコミ体質(だが、かなり周囲に毒されつつある)。

 珠希については、戸惑いつつも懐かれて悪い気はしておらず(と言うか陥落寸前だが本人は無自覚)、「許嫁」の件も「あくまで暫定」と言いつつ一応認めている。


●伊藤珠希(いとう・たまき)

メインヒロイン。元「大滝家に飼われていた牡猫タマ」という異色の経歴を持つ高校1年生の女の子。本編でも触れられているとおり極上の美少女で、やや天然気味ながら淑やかで優しく家庭的。そのクセ、運動能力は抜群(トップアスリート並)で、頭も決して悪くない。廉太郎のことが大好き(家族としても異性としても)で、現在は両親公認の「許嫁」。愛情表現もストレートなため、廉太郎はクラスどころか全校男子の羨望の的になっている。

 素性としては猫又だが、猫化する能力を失っているため、生物学的にもほぼ完全に「人間の少女」と言って問題ない。


・大滝フィリップ

 廉太郎の父。推理作家として生計を立てている。日独ハーフだが、生粋の日本育ちでドイツ語はからっきし(つまり、廉太郎は一応クォーターということになる)。ちなみにペンネームは椎 彫人(しい・ほると)。外見的には髭面の大柄な山男といった趣きで、実際アウトドア関連の知識と経験は豊富。また、ヲタク関係をはじめとする雑学知識も豊か。ただし、年甲斐もなく悪乗りする傾向があるため、息子にはあまり尊敬されていない。


・大滝伊音(おおたき・いおん)

 廉太郎の母。フィリップとは大学時代のサークルの先輩後輩として出会い、熱愛の末結ばれた(そしても今も熱々)。いわゆる「あらあら、うふふふ」系な人で、何でもお見通しのように見えるグレートマザー。当然、名実ともに大滝家一の実力者である。一応専業主婦だが、学生時代の友人に頼まれて時々助っ人として出かけ、臨時収入(30代サラリーマンの年間ボーナス並)を得て帰ってくる。ちなみに仕事内容は不明(伊音いわく「愛と平和を守るお仕事」)。


・伊藤元治&真理(もとはる、まり)

 珠希となったタマの名目上の両親。元治は、フィリップの父方の従弟に当たる。

 すでに故人のはずだが……。


○小杉真紗美(こすぎ・まさみ)

 大滝家の隣家、小杉家のひとり娘で、廉太郎の幼馴染その1……と言っても、10歳近く歳が離れており、廉太郎達3人にとって「面倒見のいい近所のお姉さん」的ポジション。現在は、恒聖高校の新米(3年目)教師で、かつ廉太郎の担任でもある。やや童顔で小柄(高確率で二十歳前に見える)ながら、それなりに美人なのだが、非常に大雑把で豪快な性格の、廉太郎いわく「残念美人」。根っからの善人で、かつ性善説の信奉者(本当の悪人なんていない、と断言する)。

 廉太郎と珠希の「婚約」については大賛成で、「お姉ちゃん、肩の荷がひとつ下りたよ」と喜ぶ……が、自分の恋愛関連を追及されると泣く。


○武ノ内毬哉(たけのうち・まりや)

 廉太郎の幼馴染その2。一見、楚々としたお嬢様系美少女で、性格もややハイテンションながら上品で女らしく、場の空気を読むことが上手……と非のうちどころがないように見えるが、実は「男の娘」。もちろん、制服は女子用を着用(学校公認)。廉太郎の隣りのクラスに所属。日舞の家元・武ノ内家の跡取りであり、その方面での評判も高い。

 性自認的は女性に近いが、恋愛対象は「男女不問で可愛い人」と公言する。

 廉太郎と珠希の仲を祝福しつつ、やや複雑な気持ちらしい。


○山下哲朗(やました・てつろう)

 廉太郎の幼馴染その3。廉太郎、まりやとは、幼稚園の時からの付き合いで、ややKYなところもあるが、基本的には明るい脳筋ナイスガイ(本人いわく「肉体労働担当」)。柔道、空手、剣道、合気道、弓道……などの武芸百般に通じ、運動能力自体も非常に高く、数多の運動部から試合時に頼られている、自称「運動部最強の助っ人」。廉太郎のクラスメイト。

 学業関係は苦手で、物知らずかつ騙されやすいタチだが、同時に真摯かつ紳士。 もっとも、年頃の少年らしい異性への関心はそれなりにあり、「うまいことやって恋人ゲットした」廉太郎を非常に羨ましがっている。ちなみに女性の好みは、「綺麗で凛々しい年上の女性」で、現生徒会長がまさに理想のタイプ。


・高嶋汐音(たかしま・しおん)

 恒聖高校3年生の生徒会長。昨年の会長着任以来、恒聖高校に劇的な改革をもたらした才女。文武両道かつ美人で性格も良い「恒聖高校のマドンナ」。

 次代(正確には再来年)の生徒会を担う人材を探していて、廉太郎&珠希に目をつける。 ※「学園QUEEN」の主人公かつヒロイン。


・猫仙人

 元は猫又だが、すでに齢1000歳を超えて神仙の域に到達した存在で、もっぱら同族(猫や猫又)から英雄・神様的扱いを受けている。

 ただし、そのライフスタイルは非常に俗っぽく、住居としている隠れ里の屋敷には最先端家電の数々が置かれ、暇な時にはネット巡回するのが趣味(更新頻度は低めだが、ツィッターもやってるらしい)。

 体長1メートル近い大きな黒猫の姿をしていることが多いが、人間界で活動するときは、仙道真央(せんどう・まお)と名乗り、中学生くらいの女の子の姿をとる。もちろん、言葉遣いは、のじゃロリババァ。

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