その4.「にゃん?」~恋猫曜日~
【1.猫が綿帽子でやって来た_a】
たとえば、たとえばもし、だ。
長年可愛がっていた飼い猫が、ある日姿が見えなくなったかと思うと、3日程したら玄関にいきなり自分と同年代の可愛い娘が現れたとしたら?
その娘が自称“飼い猫の転生した姿”で、美人なだけでなく、ちょっと天然気味だけど性格もよくて、さらに家事もそれなり以上にこなせたら?
なおかつ、自分のことを「大好き♪」と慕ってくれていたら?
まぁ、「それなんてエロゲ、もしくはラノベ?」なんてシチュエーション、普通はあるワケないんだけどさ。
でも、仮にあったとしたら──大部分の若い男は諸手を挙げて歓迎するんじゃないかね。
ああ、俺も健全な男子高校生で、彼女いない歴=年齢の寂しいシングルメンだ。
そんな美味しい状況に遭った以上、「キタコレ!」って小躍りして喜びたかったさ。
「うにゅ? れんたろー、調子悪い?」
「あ~、いや、そんなコトないぞ。元気げんき」
心配げに顔を覗き込んでくるコイツ──
「なら、いい。元気がいちばん」
ニコッと、俺なんかとは比べ物にならない可憐で無垢な笑顔を向けてくれる珠希。すごく癒されるんだが……。
「今日は、ママさんに習って、たまご焼きときんぴらを作った。自信作」
「お、美味そうなだな。さっそく戴こうか」
食卓について、珠希と差し向かいで朝飯を食べる。
正直、すごく美味い。この家に現れた、いや“帰って”来た頃(って言っても、たかだか半月程前だが)は、ロクに米を炊くことも出来なかったことを思うと長足の進歩だ。
コレだけ優秀な教え子なのだ。お袋が、上機嫌でコイツに家事その他を仕込むのもわからないでもない。
「母さん、義娘と並んで台所に立つのが夢だったのよ~」という台詞はあえて聞こえないフリをしておく。
容姿端麗・純真無垢・春風駘蕩──と、褒め言葉を連発しても決して大げさでない美少女が、自分に懐いてくれてるんだ。俺だって素直に喜びたいのは山々なんだが……。
「ふに? れんたろー、急がないと、学校に遅れる」
「おっと、そうだな」
慌ててメシをかき込みながら、目の前の珠希の顔をソッと盗み見る。
色白で滑らかな肌。
日本人には希少だが、人目を惹く綺麗な銀色の髪。
小作りで整った顔立ち。
華奢な体つきと、対称的にその存在を主張する胸。
(くそぅ、何べん見ても、俺のツボにクリティカルヒットだぜ)
それなのに俺が、いま一歩踏み出せないのは、コイツが元猫だからって理由じゃない。
──我が家の飼い猫だったタマの性別は、(去勢してたとは言え)れっきとした牡、つまり男だったからだ!
「……にゃん?」
時間がないながらも、せっかく珠希が作ってくれた朝飯なので残さずしっかり平らげる。
「旨かったぞ」という礼とともに珠希の頭をポンポンと撫で、飼い猫時代と同じく嬉しそうに目を細める珠希の様子にホワンと和みかけ──たが、登校時間の件を思い出して、慌てて珠希の手を引いて家を出る。
「れんたろー、早く早く!」
玄関出た途端に逆に俺が引っ張られてるが。
「ちょ、ちょっと待て、飯食ったばかりだから……おぇっぷ」
「れんたろー、なんじゃく者。そんなコトではせいきまつを生き残れない」
いや、もうとっくに21世紀になってるから。てか、オマエの中の世紀末はどんだけ物騒な世界なんだ。
「かくのひにつつまれ、おぶつがヒャッハー」
「北斗●拳」かよ! そんなんなったら、俺みたいなモブは、どの道モヒカンに瞬殺されちまうって。
「大丈夫。れんたろーは死なない、珠希が守るから」
──どうも、誰か(つーか犯人の目星はついてる)のせいで、珠希は急速にダメな知識を吸収しつつある気がしないではないな。
「ふにゃ……れんたろー、迷惑?」
「普通は女の子を護るのが男の役目だろ?」とか「だが、(そもそもコイツは)元男(オス)だ!」とか、いろいろな葛藤が脳内を駆け巡ったんだが……。
「……ばーか、んなコトあるわけないだろ。いつもありがとな」
──こんな極上の美少女に不安げに小首をかしげられて、そのままにしとくなんて真似、ヘタレな俺に出来るワケがないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます