【季多乃ちゃんのしあわせな一日】

 「ついにこの日が来たか……」

 「来ちゃったね~」


 感慨深げに、そう呟く彼の顔がおかしくて、思わずクスリと笑いながら、ボクもそれに合わせて応える。


 彼と出会って7回目の夏が訪れようとしている時季のとある週末、ボクは彼と一緒に高原でデートを楽しんでいた。


 彼──鰯水柊樹ことヒイくんは、“あの時”父さんに誓った通り、恋人としてボクをずっと大切にしてくれている。

 その律儀さ・生真面目さは好ましいものだと思う反面、今年二十歳の誕生日を迎えるボクとしては、ほんのちょっと物足りないと感じることが無いわけじゃない──主に性的な意味で。


 な、何、悪い? 女の子にだってせーよくはあるんだからね!


 (……あはは、心の内とはいえ、まさかこんなセリフを自分が言うことになるとは思わなかったなぁ)


 でも仕方ないよね。今のボクは、何十年も生きた幽霊族の男の子じゃなくて、ちょっと霊感と霊力は強いけど、それ以外はごく普通の人間の女の子なんだから。


 幽世白粉がもたらす変化の力は本当にスゴくて、今のボクは、見かけだけじゃなく、身体の中身もしっかり“女の子”になってる。

 その証拠に、月に一度はキチンと“女の子の日”がくるからね。


 (いやぁ、初めて生理が来た時のあわてっぷりは、今にして思うと、我が事ながらマンガみたいだったなぁ)


 その節は、ネコちゃん──美也さんにお世話になりました。


 それに、女の子としての成長は、何も月経だけじゃなくて、背丈とかスタイルとか胸の大きさとかにだって、ちゃんと現れてるからね?


 今のボクは、身長こそ160センチと女子の平均程度だけど、バストは88のCで巨乳とまでは言えなくても大きい方だし、ウェストだってそれなりにくびれてるし、お尻も形がイイってヒイくんはいつも褒めてくれてるんだから!


 顔がちょっぴり童顔っぽいのは──うん、まぁ、若く見えるからセーフってことで(こないだ、繁華街で中学生と間違って補導されかかったのは、きっと補導員さんの目が節穴だったんだよ!)。


 それに、身体だけじゃなくて、こころとか技能スキルとの面だって、立派に成長してる……はず。


 お料理やお裁縫は、同年代の女子の平均と比べたら割と巧い方だと思うし(教えてくれた美也さんやヒイくんのお母さんに多謝)、あまり得意じゃないけど家計簿だってつけられるし、カロリーや栄養の計算だってお手の物なんだから!


 まぁ、こう見えても一応、短大の家政学部に通う女子大生ですから~、当然っちゃ当然なんだけど。


 (でも、短大とは言え大学に通って真面目に学生してるって、昔の勉強嫌いな“僕”に言ったら、きっと耳を疑うだろうなぁ)


 ちなみに、ヒイくんは、高校卒業後、専門学校で建築デザインの勉強して、来年春の卒業後に、地元のとある工務店に就職が内定している。


 “だから”ボクらは、今、ここに(父さんの許可も得て)ふたりで来たんだ。


 『ふぅむ……確かにヒイ坊も、この7年間でそれなりに成長しておるし、これまで“娘”の純潔を汚さず、健全な関係を保ってきたことは認めよう。

 就職先も見つかり、いよいよ家庭を築く見込みもたったのじゃから──よし。おい、季多乃! 今度の週末、ヒイ坊と“御泊りデート”に出かけても良いぞ。ワシが許す!』


 わざわざこう明言するってことは、「最終合体セックス」解禁ってことだよね?


 ヒイくんは血涙流して喜んでた。もちろん、ボクだって、そのぅ、彼に抱かれたいって、ずっと思ってたんだよ?


 とは言え、いくらお許しが出たからって、昼間っからラブホに直行して爛れた愛欲に溺れる──なんてのは、ボクらのキャラじゃないし。


 夜はふたりでひとつの部屋に“お泊り”するのは確定として、それまではごく普通の若者らしくイチャイチャ(←この言い方がすでに若者らしくないって意見もありそうだけど)と、甘い雰囲気のデートを楽しんだ。


 今日のボクの服装は、白いシフォンのノースリーブサマードレスと、同じく白のつば広帽子。ゲームが好きな人なら、「ポ●モンのリ●リエみたいな格好」と言えば伝わるかな?

 ただし、足元はオフホワイトのニーハイストッキングとサンダルだし、スカート丈も膝がギリギリ隠れるくらいはあるけど。


 中学時代より、ほんの少しだけ短くした(でも腰近くまではある)髪は、後ろでひとまとめに三つ編みにしたあと、先端近くにトレードマークの黄黒縞のバンダナをリボンみたく結んである。


 最近の流行とはちょっと違う“ややレトロなお嬢様”とでもいうべき服装だけど、感性その他の根が昭和なボクの好みにはピッタリくるし、自分でも似合ってるんじゃないか、と思う(ヒイくんも「可愛い」って褒めてくれたしね♪)。


 で、そんな“おぜうさま”な美少女ボクは、昼間はヒイくんと腕を組んで、牧場で牛や馬と触れ合ったり、ガラス細工工場を覗いたり、偶然見かけたチャペルの結婚式を見物したりと、高原のデートを満喫した。


 特に最後のチャペルで見たのは、割とボクらと歳の近い(たぶん20代初めかな?)新郎新婦さんたちだったんで、ボクもヒイくんも否応なしに自分達に置き換えて意識しちゃって……。

 うん、でも、その分、浪漫ちっくな甘い雰囲気になれたから、結果オーライだよね!


 その余韻が残ったまま、予約していたペンションにチェックインして、ふたりで部屋に入り……。

 荷物を下ろして帽子を脱いだと同時に、ボクはヒイくんに肩を抱き寄せられ、そのまま唇を奪われちゃった♪


 ──え? 自分から目を閉じて顔を上に向けてるのに「奪われた」もなにもない? いやん、それは言わない約束だよ♪


 * * * 


 長い長いキスのあと、どちらからともなく唇が離れた後、柊樹はニッコリと笑って、季多乃を抱き締めると、耳元に吐息を吹きかけながら熱っぽい声で囁く。


 「覚悟しとけよ。これまでおあずけされてたぶん、今日は気持ちイイこと、たっぷりシちゃうからな」


 うなじに情熱的なキスをされ、季多乃は甘い刺激に身を震わせた。


 (はぅんっ……ど、どうしてだろ……今まで以上に……き、気持ちいいよぉ♪)


 これまでだって、“本番”には至っていないが、彼の煩悩を少しでも満たすべく、ソフトなペッティングくらいは許してきたのだ。


 その時の彼の愛撫もそれなりに気持ち良かったが、今日の柊樹の指先の感触は、これまでと段違いだった。

 彼の指先にお腹や太腿をまさぐられるだけで、溶けそうなほどの甘い刺激に背筋が震え、身悶えてしまう。


 無論、これはいきなり柊樹(19歳・童貞)がテクニシャンに進化したわけではない。どちらかと言うと、抱かれる側である季多乃の方が彼を本格的に「受け入れる(意味深)」覚悟をしていることの影響が大きかった。


 「あっ、あっ、あンッ……や、やだっ! ダメ! なんだか怖いッ!」


 まったく力の入らない身体をよじって、柊樹の抱擁から逃れようともがく季多乃。


 「この期に及んでやだって言われてもなぁ。そ・れ・に……」


 柊樹は楽しそうに笑いながら無造作に手を伸ばし、季多乃が着るワンピースの肩紐を指で引っ掛け、外にずらした。


 「きゃんっ!」


 彼女が身を捻ったこともあいまって、彼の指先につかまれた白いサマードレスの肩紐が外れ、淡いミントブルーのブラに包まれた形の良い胸が顕わになる。


 「季多乃、胸の先っぽ、もうこんなに尖っててるよ?」

 「えっ? ウソ……」


 柊樹が指先でそっと触れると、胸の弾力と体温、汗で微かに湿った感触が伝わってきた。

 ピンと尖った乳首を指の腹でこねくりまわす。


 「んああっ!」

 「ほら、もう、ここ、こんなに硬くなってる」

 「ふぁあああ! つ、摘ままないで……あんっ!」


 季多乃の体から力が抜け、そのまま彼に誘導されるように傍らのベッドの上で仰向けになる。


 柊樹は内心の興奮を押し隠しつつ、季多乃の太ももに手をのばした。細いけれども、女の子特有のやわらかさがある。白いストッキングに包まれたふくらはぎからくるぶしにかけてのラインに掌を滑らせると、ビクンと彼女の体が跳ねるのがわかった。


 「季多乃の肌、どこ触っても綺麗ですべすべだな」

 「あは、そう言ってもらえると、嬉しいかな……あ…ん、そこはぁ……」


 太腿の内側を上下に撫でるたび、季多乃は恥じらいからか、身体をぴくぴくさせながら、足に力を入れ閉じようとする。

 柊樹は、さらなる境地に進もうと、顔を下半身に移し膝から太ももへと口づけをしていく。


 力が抜け、少しずつ開いていく両脚の間に体を滑り込ませ、スカートをゆっくり持ち上げようとした柊樹だが、そこで急に季多乃の手に阻まれた。

 顔を上げると、季多乃は頬を赤く染めて頭を弱弱しく横に振っている。たぶん恥ずかしいのだろう。


 「大丈夫」と微笑みかけながら、柊樹が右手の動きを早めて愛撫を強めると僅かながら季多乃の力が弱まった。

 その隙を逃さず顔を股間へと近づける。


 (おっ、コレは……)


 目と鼻の先にある“布”の色が変色していた。どうやらショーツが濡れているのを見られるのを躊躇ったらしい。しかも、意外なことにショーツは碧いシルクのサイドストリング、いわゆる紐パンだった。


 「へぇ、まさか季多乃がこんなセクシーなの履いてるなんて」

 「ぅぅ……だって、せっかくのヒイくんとの初めてなんだし、その……」


 顔を真っ赤にしてゴニョゴニョ言ってる様子が、たまらなく可愛い。


 暴走しそうな欲望を内心に抑え込みつつ、柊樹がショーツ越しに季多乃のソコをやんわりいじると、指先にぬるぬるした湿り気がより感じられるようになった。ショーツに染みが広がっていくのがわかる。


 「ほーらココ、もうこんなに濡らしちゃって……。じゃあ、脱がすよ」


……

…………

………………


 「季多乃、俺、もうそろそろ…」


 「ひっひゃぁん! いい…よ。ヒイくんの……熱いの、出して。季多乃に……いっぱい、いっぱい頂戴!」


 「あ、ああ、いいぞ。俺も……季多乃、いっしょにイこう」


 「ヒイくん! もう、イク、イっちゃう…イくぅぅーーーーーーッ!」


 男女共に初めて同士でありながら、問題なくほぼ同時にイくという、なかなか幸運な初体験をしたふたりは、絶頂の波の余韻にたゆたいながら、しばらく抱き合っていたのだった。


 * * * 


 「ついにシちゃったねー」

 「シちゃったなー」


 ようやく呼吸が整ったところで、ボク──ううん、“わたし”はヒイくんに頼んで、彼に寄り添いながら腕枕をしてもらってる。


 「♪」

 「? なんだかご機嫌だな季多乃」

 「あ、わかる? 実はさ、ちょっと古めの少女漫画とかでさ、“Hの後、彼氏に腕枕してもらうヒロイン”って描写がよくあるけど、アレ、そんなにいいモンなのかなぁ、って思ってたんだ」

 「ふむ……で、実演してみたご感想は如何ですかな、マイハニー?」


 ちょっと気取った口調で尋ねるヒイくんに、わたしは満面の笑顔で答える。


 「うん、サイコーだよ、ダーリン♪」


 彼の体の温もりとか、愛する人がそばにいる安心感だとか、その……エッチした余韻とか、諸々が混ざって、何ていうか、すっごく安らげる感じ。

 身体の深奥に注ぎ込まれた熱いモノの感触さえも愛おしい。


 「──結婚したら、毎日、ベッドでこんな風に寄り添えるんだよね。今から楽しみ♪」


 結婚式はやっぱり、純白のウェディングドレスがいいよね。でも父さんは和装の文金高島田を見たがるかなぁ。


 子供は最低でも男女ひとりずつは欲しいなぁ。でも、しばらくは新婚気分でイチャイチャしたい気もするし……うーん、迷う~。


 とりとめもなくそんなコトを考えながら、旅行と初エッチの疲れが出たのか、だんだんと眠くなってきちゃった。


 「ヒイくん……わたし……」

 「はは、眠そうだな。いいよ。俺もちょっと疲れてるし、晩飯の時間まで、ちょっと一緒に仮眠とろうぜ」

 「う、ん……」


 何とか、そう答えて、そのまま彼の腕の中で温かな感覚に包まれながら目を閉じる。


 (大好きだよ、ヒイくん♪)


-おしまい-

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