【5】犬耳少女と愛を叫ぶ婚約者

 「しっかし……あのあと、お前のしゃべり方が突然変わったのには驚いたぞ?」


 正確には、変わったと言うより、猫かぶらなくなった、という方がただしいんだろうけどな。


 「あはは。ゴメンね。やっぱり幻滅した?」


 ピコピコと犬耳を動かしながら苦笑するあかりに、「いんや」と首を振る。


 「驚いたのは事実だけど、懐かしかったという面の方が大きかったしな。

 それに、確かにお前を「女」として意識したのは、ああいう淑やかさんな態度がキッカケだけど、今となってはそんなの気にならないほど、お前に惚れてるし」


 「──も、もぅ……清彦さんたらぁ、普段は朴念仁なクセに、こういう時だけ直球投げて来るんだから、ズルいわ」


 そう言いながら、頬を染め、床の上であぐらをかいてる俺の隣りに腰をおろし、ポフッと身体をもたせかけてくる愛しの仔犬ちゃんマイパピー


 (ま、これくらいはいいよな?)


 俺があかりの肩を抱き寄せると、あかりも心得たものでそっと瞳を閉じる。

 そのまま、ふたりの唇が重な……


──バタン!


 「へろー、えぶりわん! 今日も元気にサカってるー?」


 ……ろうとして、残念ながら果たせなかった。おにょれーー!


 「──双葉、いくら親友の部屋だからって、ノックぐらいしろ。それと、年頃の女の子が「サカる」なんて言っちゃいけません!」

 「じゃあ、「ニャンニャンしてる」?」

 「いつの生まれだお前は!?」


 我が妹ながら、あいかわらずフリーダムなヤツめ。


 「ああ、あかりの場合、犬っ娘だから、もしかして「ワンワン」?」

 「どっちでもいーよ! つーか、そこから離れろ!!」

 「へう~、ワンちゃんスタイルでエッチなんて──で、でも、清彦さんが望むなら、あたし……」


 あかりも真に受けて妄想するなって!

 まったく、コイツら自分が受験生だって自覚あんのか?


 「いやぁ、大丈夫でしょ、少なくとも、この子は愛しのアニキのいる学校入るためなら、大統領だってブン殴ってみせるわよ」

 「いや、殴ってもどーにもならんだろ」


 まぁ、確かに、あかりの成績は、現時点で模試判定BときどきAって感じだから、気を抜かなければ大丈夫だとは思うがな。


 「あ……はい、頑張りますね、清彦さん」


 ご覧の通り、俺とふたりきりの時以外は、親友の双葉の前でも丁寧口調なんだよ、コイツ。そう考えると、“甘えんぼモード”のあかりが見れるのって彼氏の特権だな。


 「ほらほら、ソコ! 気を抜くとすぐイチャイチャするんだから!」


 確かにそれは否定せんが、それがわかってるなら席を外す程度のエアリード能力は欲しいものだな、妹よ。


 「だが断る! ……じゃなくて。おばさんが、晩ご飯出来たから降りておいで、って」

 「え、双葉ちゃん、もうそんな時間なの? はわ、お母さんのお手伝いするの忘れてました!」

 「あー、だいじょぶ。今日は焼き肉で、そんな手間じゃなかったらしいし」


 そんなコトを言いながら、部屋を出て行くふたりのあとを俺も追って立ち上がる。

 ちなみに、今日はウチの両親が留守なので、あかりン家で御馳走になる予定なのだ。


 部屋を出ようとした時、開いたままのアルバムに気づき、バタンと閉じて本棚にしまう。

 思い出は思い出として大事だけど、追憶にふけるにはまだ早過ぎる。


 「これからも、俺とあかりの思い出は永久(とわ)に──ってのはクサ過ぎるけど、少なくとも「死ふたりを分かつまで」はつづられていく予定なんだしな」

 「──ホントですね? 言質はとりましたよ?」


 うわっ、あかり、いたのか? てか、そのボイスレコーダー、どこから出した!?


 「あきらめなって、兄貴。て言うか、兄貴も満更じゃないんでしょ?」


 双葉……。


 「うむうむ、清彦くんになら、ウチのあかりを安心して預けられる」

 「あら、私はとっくに半分お嫁にやった気でいましたよ?」


 お、おじさんにおばさんまで……。

 こーなりゃ、ヤケだ。


 「ええぃ、わかった、わかりました! わたくし巽清彦は、近い将来、桜守姫明利を妻として娶り、ともに人生を歩むことを誓います!!」


 ──その日の桜守姫の晩餐が、臨時の「清彦・あかり婚約記念パーティー」に早変わりしたことは言うまでもない。


 「きよにぃ、だーーーいすきだよ!」


<FIN>

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