【07】
瞬間。周囲の空気が透明度を増して、視界に映るすべての色が鮮やかに変わったのと同時に、
ただでさえ凄まじい
しかもこの魔法、実際に試すのはまだ数度目で、さすがの
発動したら最後、僕の魔力が尽きるまでひたすら最大出力なのだ。
石畳と
――ずん、というシンプルな音とともに、暗黒騎士を中心に石畳が陥没し、巨大なクレーターが出来た。そして深い深いその底で鎧がぺしゃんこに潰れたのと同時に、僕の魔力も底をついていた。
超加重
「終わ……った……」
呟きながら、魔力切れでびくとも持ち上げられない
その前方で膝を抱えぶるぶると寒さに震えているのは、
彼女の髪からのぞく耳の尖った先端と、額から目許まで薄っすらと浮かぶ鱗の模様、そして作り物じみて見えるほどに整った美貌が、ただの人間ではないことを主張している。
だから実年齢は、凄く年上かも知れないし下かも知れない。
「くっ、ここ殺せっ、おおおまえのかかちちだっ」
がちがちと歯を鳴らしながら彼女は言った。兜を通さない素の声は、すっかり少女らしいものになっている。
僕は中古剣の柄に手をかけつつ、ゆっくりと歩み寄っていく。
「そそれとも……はは恥ずかしめるきかっ……!」
鋭い切れ長の目、
ぎゅっと抱えた膝の向こう、たぶん薄くて小さな衣類を身に着けているようだけれど、そのへんから必死に目を逸らししつつ僕は、彼女の華奢な肩に自分の
「……え」
「しないよ、何も。きみだって、あの小さな男の子を傷つける気はなかっただろ。──たぶん、街の人のことも」
そう、あのとき彼女が男の子に振り下ろした魔剣には、一切の殺気がなかった。
僕がこれまで勇者と共に対峙してきた魔蹂将たちの中に、そんな「人間味」を垣間見たことは一度たりとてない。
「きみは鬼人だろう? たぶん、人間として育てられた」
鬼人。総じて、高位になるほど繁殖能力が劣っていくとされる魔族たちが、人間と交わることで産んだり産ませたりした
そのほとんどは、物心つかないうちに魔族に連れ去られ、尖兵として育て上げられる。
しかし時折、魔族の手を逃れ人間として育てられる者もいた。
「…………」
彼女の沈黙が、僕の問いかけを肯定する。
成長するにつれ魔族としての特色が強くなるから、最終的には魔族にバレて連れ去られ、洗脳されてしまうのだが。中には彼女のように、人間としての意志を色濃く残し葛藤し続ける者も、ごく稀に存在するのだ。
彼女はきっと、
「……どうせ、もう終わり。私が秘宝を手に入れられれ……られなけれれば、あとは奴が動く手筈……」
淡々と、言葉を紡ぐ。まだ口が回り切っていないせいで、緊張感は台無しだったけれど。
「
……えっ。魔蹂将、まだいるの? 呆然とする僕の耳に、頭上からたくさんの歓声が飛び込んできた。見上げると、クレーターの縁から数人の住民たちがのぞき込んで、満面の笑顔で手を振っている。
もちろんその中にはサリアさんもいて。彼女は斜面をすべり下りると、僕の方を見つめながらまっすぐ駆け寄ってきた。――ゴクリと唾を飲み込む僕。
その勢いのまま彼女は、ひしと抱き着いていた。僕の横を通り抜けて、鬼人の少女に。
「レナ! どうして、あなたが!?」
「サリアおねえちゃん……街を守れなくて、ごめん……」
――しかし時折、魔族の手を逃れ人間として育てられる者もいた。
「レナなら、話してくれれば良かったのに」
「だって、秘宝なんか無いのは知ってたから。せめて勇者の首を持ち帰ればと思ったの……」
二人の会話にいろいろと察しながら僕は、思わず心の声を漏らしてしまう。
「
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