【04】
「それではゆくぞ、勇者よ!」
広場に暗黒騎士レナザムドの発する重低音が響いた。
六本腕それぞれに、背負っていた剣や斧や盾を構えながら、巨体にそぐわない高速で一瞬に間合いを詰めて来る。
それに先行して僕の元には、凄まじい濃度の魔力と殺気が暴風のように吹き付けた。
――うわあ、やっぱり無理だろこれ。
人間にとって、魔族は天敵である。それはもう生まれながらに本能に刻まれていることだ。
ましてや、相手は魔族の最上級存在である魔蹂将なのだ。
それを目の前にした人間は、
そして、そのままなすすべもなく蹂躙されるのだ。
訓練された王都の軍隊さえも、そうして一方的に壊滅させられた。
「ごめんなさい!」
人々の期待を裏切ってしまうことに全身全霊で謝罪しつつ、どうせあの鎧には刃が立たないだろうから、僕はおととい立ち寄った街で買ったばかりの中古品の長剣を鞘に戻す。
僕だって、できることなら魔族と戦いたい。この街を守りたい。でもそんな力なんか無いから、せめて勇者の従者として手伝いをしているのだ。
――そして僕は、暗黒騎士にくるりと背を向けていた。
『えええ?』
「きさま、どういうつもりだっ!」
背後から
同時に続けざま背を襲う激しい衝撃。
その一撃ごとが、僕にとってはおそらく致命的な威力だろう。
「だから、ごめんって」
斬りつけながら前方に回り込もうとする暗黒騎士にあわせて僕は、
なので彼の眼前にはいつまでたっても
と、まあこのように、まともにやり合う気はないからこそ謝ったのだ。
何はともあれ僕の手足はすくんだりせず、しっかり動いてくれる。だてに勇者の従者として、その傍らで何度も魔蹂将との戦いに巻き込まれながら生き延びてきたわけじゃない。
「……きさま、なんだその袋は……」
そしてさすがに彼は、どんなに斬りつけても傷一つ付かない巨大
「なんなんだろうね、僕もよく知らないんだけど」
――なんでも、暴食の魔獣ケルベロスの胃袋で出来ているとか、いないとか。
「ふざけるのもいい加減に――しろっ!」
その答えがだいぶ
「おっと」
脚力を瞬間【
と同時に、超重い
「――【
取り消した。その結果、僕は両足ではなく
「なにっ!?」
手をひとつ潰されたにしては薄めにも思える
無防備な暗黒騎士の広い背中を一瞬に駆け上った僕は、前かがみになることで生じた兜と鎧の間の間隙に、抜き放った中古剣の先端を突き刺す!
「ぬああっ!?」
響き渡る情けない声は、残念ながら僕自身のものだった。
腕力の瞬間的な【
六本腕のうち上の左右二本が、人間の関節ならばあり得ない方向にぐねりと曲がって、手にした
暗黒騎士の背中を蹴って後方に離脱する僕の視界の中、彼はゆっくりと振り向く。
「おのれ姑息な戦い方を! それでも勇者か!」
蛮刀と腕を諦めて捨てたということか。加えて、今の上腕の動きや反応速度──日々、勇者様の無茶ぶりにさらされ、それに応えるため磨かれてきた僕の【
「そもそも僕はっ、勇者じゃないっ!」
それを転がるように避ける僕。暗黒騎士の重装備の巨体に対して、速度だけはどうにか上回っていた。脚力の瞬間【
何度も言うけど、だてに勇者と魔蹂将の戦いのど真ん中、即死級の流れ弾が飛び交う修羅場を生き延びてはいない。
「やはりそうか! ならばさっさと死ぬがいい! 私をたばかった人間どもも、すぐ後を追わせてやろう!」
「どうせ元から、そのつもりじゃないのかっ」
逃げ回りながら、いつの間にか僕は広場の外縁部まで追い込まれていた。
すぐ近くに街の人々がいて、僕の無様な戦いぶりを、ざわめきながら見守っている。
本当に申し訳ない。なんとかしたいところだが、今のところ、はぐれた本物の勇者がひょっこり現れてくれるのを待って時間稼ぎするくらいしかない。
――問題は、
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