【03】
「ねえサリア、ほんとにあの人が勇者様なの?」
「えっ……そうだと、思うけど」
広場の外縁を囲むように集まった人々の中、サリアに声をかけてきたのは同年代の友人だった。
「勇者リュクト様って、最強の勇者って噂じゃない? ……あんまり強そうじゃないし、たしかに噂通りの美形ではあるけど、どっちかというと
確かに、友人の疑念もわかる。
彼が落ち着いた
まあ、あんなに異様な
でもやっぱり、金髪に
手を繋いだときちょっと照れた様子が可愛らしかった。
そして、彼の手の感触を思い出す。
普通の男の子と少し違うとしたら、表面がまるで石壁のように堅くて、でも温かくて、握り返す力はとても優しかったことだ。
だから、ついずっと握っていたくなってしまって、ここまでずっと手を引いてきたのだ。
「でも彼の手を握ったときね。なんだか、すごく安心したの。勇者だからとか関係なく、この人ならなんとかしてくれるって思えた」
「……そっか。こないだまで女神様の巫女だったサリアがそう感じたなら、そうなのかもね」
ひと月前。二十歳を迎えて巫女を引退する直前の彼女は、神殿で祈りをささげている最中、神から
周囲が白い光に包まれて、威厳に満ち満ちた声が頭上から響いてきたのだ。十四歳から巫女として勤め上げたなかで、初めての経験である。
『この街に魔蹂将が現れる。その目的は街に伝わる秘宝を奪うこと。阻めなければ世界は滅び、渡さなければ街は灰燼と帰すであろう』
十九歳がひとりで背負うには、あまりに大き過ぎる二択。
そもそも、街に伝わる秘宝の話などというものは一度も聞いたことがなかった。
街で最年長の
絶望する彼女に翌日、ついでのように告げられたもうひとつの
『そうそう、同じ日に勇者リュクトもこの街を訪れる。だから、そのへんうまくやるべし』
なんだそれ、ふざけんなよ神様。思いつつも彼女は、その話にすがるしかない。
そうして熟慮の末にひねり出した
今──彼女の描いた
勇者が勝てば、とりあえず街も世界も救われる。負けたら……まあ、そのとき考えよう。
「うん、きっと大丈夫! だから、みんなで応援しよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます