【02】
「えーと、ちょっと状況を整理させていただきたいんですが」
サリアさんに背中を押されるがまま公園の石畳に歩を進めていた僕は、遠巻きに広場を囲んだ人々の期待に満ち溢れた視線の中で、
「あいつは魔王軍の『
答えるサリアさんの声は、ずいぶん遠くから聞こえた。
振り向けば彼女の姿は広場の外縁で立ち止まっている。
どうやら僕は彼女に背を押されるままに、ひとり堂々と暗黒騎士の前へずんずん進み出ていたらしい。
「けれども街の全員が知っています! 勇者様ならば、あんなやつ簡単にやっつけてくれるってこと! 応援してます、がんばってくださいね!」
ぎゅっと握った拳を突き出して、ウィンクしてくるサリアさん。いやあ遠くてよかった、至近距離であんな技を喰らっていたら致命傷だったかもしれない。
――などと現実から目を逸らしたところで、状況はなにひとつ変わらない。
彼女は暗黒騎士を【魔蹂将】と呼んだ。
十年ほど前のこと。
長らく平和だったこの大陸は、魔王直属の魔蹂将を名乗る魔族たちによる襲撃を受けた。
魔王軍でも最強クラス、一騎当千の力を持つ彼らは、この大陸を分割統治していた三つの王国それぞれの王都を単騎で襲撃し、そのことごとくを一晩で壊滅させた。
「単騎」で「一晩」でだ。
そしてこの街が属していたエルダリウス王国も、その一つだった。
以降、この大陸に統治者はいない。
建国王の像は、首をもがれる前からとうに存在意義を失っていたのだ。
一定以上の規模や戦力を備えた組織を作れば、魔蹂将によって壊滅させられるという。
人間たちは彼らに目を付けられないように牙を捨てねばならず、とは言え野生の魔物たちや野盗どもから身を守る程度の力は必要で、その妥協点を探りながら日々をひそやかに生きている。
――しかし、この街は不幸にも目を付けられてしまったらしい。連中は無理難題を吹っ掛けてきて、結局さいごは跡形もなく蹂躙し壊滅させるのだ。
そう、僕の故郷の街のように。
しかし偶然か、何らかの絡繰りがあるのかはわからないけど、魔蹂将の要求する勇者はこの街を訪れることになっていた。
結果。街の全住人の期待と命を一身に背負い、単騎で国を壊滅させる力を持つ魔蹂将に、たったひとり
うん、もうどうにもしようがない。こうなったらやるしかない。
日ごろ勇者からの無茶ぶりで鍛えられし【
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