第二の録 『悪夢の源』

「いや・・・・・・やめて」

  悪夢にうなされている声が聞こえる。声の主は高月桃香だ。

 彼女が悪夢を見る理由、それは――


 「どうしたの桃香。そんな疲れ切った顔して、昨日仕事持ち帰って徹夜した?」

  と見晴が言いながら食堂の窓口で買ったサバの塩焼き定食を机に置く。それに対して桃香は

「見晴先輩。私が仕事持ち帰って徹夜する人に見えますか?まぁ時々持ち帰ってますけど、徹夜まではしないですよ」

 と言う。『アッ、持ち帰りはするんだ~』と見晴は思い、一番気になっている事を聞く。

「ふーん。じゃあなんでそんな顔をしてんの?私だったら話ぐらい聞くけど」

 と言うと桃香が

「えぇ!ホントですか。ありがとうございます見晴先輩」

 と言って話し始めた。

 話の内容を要約するとこうだ、一ヶ月前から悪夢を見て寝ても寝た気がしないという事だった。

「ふーん。そうなんだ~。ねぇ、その夢の内容って覚えてる?覚えてたら話してほしいんやけど、無理?」

 と言うと桃香が夢の内容を話しだした。

「見る夢ははいつも同じで、自分が寝てて、そうすると角の生えた女の人が出て来て私の体を食べていくの。その時の恐怖感といい食べられていくときの痛みがなんかリアルで、寝るだけで疲れる」

と言うと、近くで話を聞いていたらしい部長が

「えっ。桃香、君もか」

 と言うと桃香が

「えっ。部長もなんですか!」

 と言う。『あぁ、そうなんだよ』と言いながら豚カツ定食を机に置く。すると部長が

「ほんとに、困っちゃてさ~、なんでなんだろうね~」

 と言った。

「ほほう。それはあれだ。夢に巣食う鬼ゆめにすくうおにのせいだろうな」

 突然琥珀川が話に混ざってきて見晴は驚く。

「わぁ!琥珀川」

 と言うと桃香に呼ばれ、見晴は冷や汗をかく。『やばい。普通に琥珀川にはなしかけてしもた』と思う。

「な・・・・・・何?桃香」

 と言うと桃香が琥珀川の方を指差して言う

「見晴先輩。あの平安貴族みたいな人、誰?」

 その時見晴は安堵した。『良かった~見えてた』と。

「えぇっとね、桃香。この人は琥珀川天流って言って、神様で・・・・・・なんかよくわかんないけど・・・・・・私の守護神的な感じの人」

 と見晴が言うと桃香が『えぇ!いいですね~』と言われたが実際何も良くないと思った。

 琥珀川が見晴の服をちょんちょんと引っ張り言う。

「見晴、俺もなにか食べたい。ここには何があるのだ?」

「へぇ?あ~、んーとねー、いろいろあるからこっちおいで」

 と見晴が言い琥珀川を食堂の注文窓口の方に連れて行く。結局琥珀川が注文したのはラーメンだった。

「それで、琥珀川。桃香と部長が悪夢を見る原因の夢に巣食う鬼ってなんなの?」

 と美晴が言うと琥珀川は美晴達の方を向き説明する。

「うむ、夢に巣食う鬼というのはな、簡単に言うと人の夢に入り込みその人が本来見るはずの夢を食べその代わりに悪夢を見せると言う鬼だ」

「なんだ、それだけなんですね」

 と桃香が言うと琥珀川は桃香の方を見て

「と思うだろう。だがな、この夢に巣食う鬼は人を殺すことだってある。」

 殺すと言う琥珀川の言葉に美晴達は箸を持つ手が止まる。すると桃香が

「えっ……琥珀川さん、嘘ですよね。殺すなんて」

 と言う。それに対して琥珀川は

「いや、嘘では無い。実際に夢に巣食う鬼は人を殺してそれを食うと言う話がある」

 そして更に琥珀川は続ける

「殺し方は単純だ。鬼が悪夢を見せ、その悪夢に耐えられなくなった人は自殺する。自殺であるから鬼が殺したとは言い難いが自殺をする動機となった悪夢を見せているのがその鬼であるため、その鬼が殺していると同じだ。」

 琥珀川の説明を聞いて美晴達は一気に血の気が引く。すると桃香がうるうるとしながら

「えぇー!いやです。私死んじゃうんですか。そんなのやだー!琥珀川さん、助けてくださいよ~。」

 と叫ぶ。それに対して琥珀川は

「その事については美晴に頼め」

 と言ってきた。

「えっ、おい琥珀川、なんで私に」

 と美晴が言うと

「なんだ忘れたか。お前の責務は人ならざる者が起こした怪異を解決するのを俺の代わりにやるという事だぞ」

 と言ってきた。

 『はぁ』と美晴がため息を吐く、そして何やら二人分の視線を感じるのでその方向を見ると桃香と部長が美晴のことをうるうるとした目で見てくる。それに耐えかねた美晴がまたため息を吐きながら

「分かりましたよ、桃香、部長。あなた達に起こる怪奇、私が解決してあげますよ。」

 と言うと桃香と部長は『美晴様~ありがたやありがたやー』と言って美晴のことを拝んできた。

「ただし、報酬はたっぷり頂きますよ~」

 と言うと桃香達はまたうるうるした目で美晴のことを見てきた。そして話し合いの末、『自分達の命を守ってやるのだから報酬ぐらい下さい』という美晴の発言で、この件が解決したら桃香と部長が報酬金を支払うという事に決まった。


 「ただいま~、と言っても誰もいないか」

 と言うと優馬と桜狐がひょこっと顔を出して

「お帰りなさい、美晴さん」

 と言う。

「えっ、なんで優馬がここにいるん」

 と美晴が言うと優馬は困った顔をして

「やだな~美晴さん。『どうせこの家に一人じゃ寂しいし、優馬が良いならこの家で一緒に住まへんか』と言ってきたのは誰ですか」

 と言った。そこで美晴は思い出した。『そうだ、私が優馬のこと誘ったんだった』と。

 ちなみに、美晴の家はもともとは美晴の祖母の家だ。そして美晴の祖母は大家族であり、美晴が受け継いだ家は美晴一人住むには大きすぎる家なのである。だから優馬をこの家に誘ったのだ。まぁ結局、優馬が住んでもまだまだ部屋の空きはあるのだが。

「それで、その夢に巣食う鬼を美晴さんが退治することになったんですね」

 美晴の話を聞いていた優馬が言う。

「そーなんだよー。でもさー、私生身の人間、鬼なんか相手にできると思う?無理だよねー」

 と優馬に愚痴をこぼす。

「うーん、豆でも撒いたらどうですか?」

「豆ぇ?でも豆って本当に鬼に効果あるの?」

 という会話を交わしながら美晴はひらめく『そうだ、琥珀川に聞いてみよう。ダメなら琥珀川の式達にも聞いた方がいい』と。

「と、言うことで琥珀川、鬼について教えて!」

 と美晴が言うと琥珀川は呆れたという顔をしながら教えてくれた。

「まずな美晴。鬼というのはどういう物か分かるか?」

 その問いに美晴は『知らない。だからあなたに聞いている』と返した。

「そうか。まずそこから説明が必要か。おい優馬、お前も聞いておけ」

 と言い、琥珀川の説明が始まった。

「そもそも鬼というのはな、簡単に言えば妬みや怨み、悲しみや憎悪などと言った陰の感情があやかしになったのを鬼と言うのだ。そして、言い換えれば鬼を生み出すためにはさっき言った陰の感情があれば鬼は生み出せるし、人を鬼に変えることだって出来る。」

 そして更に琥珀川は続ける。

「そして、鬼を退治する為には二つの方法がある。一つ目は鬼を殺す事、人型の鬼であれば急所は人間と同じだ。ただし、人型の鬼であればだ。二つ目はの者にその鬼を保護してもらう事だ。タカツキの者と言うのはタカツキ家の人々のことを指す。タカツキ家は諸説ありだが奈良時代から鬼の監視と保護をしていたという説がある。まぁ、大体はタカツキの者に保護してもらうのが手っ取り早い」

 と説明した。

「どうだ。美晴。これで満足か」

「うん、大体は。じゃあさ、鬼をわざと呼び寄せたり、召喚する方法ってあるの?」

 と言う美晴の問い掛けから琥珀川の説明はまだまだ続くのであった。


 それから三日後、鬼退治をする日がやって来た。

 琥珀川からあらかじめ聞いておいた鬼を呼び寄せる方法はこうだ。一つ目、呼び寄せたい鬼の姿、又は名前を紙などに書く事。二つ目は、黄昏時たそがれどきか丑三つ時に一つ目で書いた紙を持っていること。そして三つ目が、その紙を鬼門の方向に置き『鬼よ来い』と念じる事。というとてもシンプルな物だった。

「じゃあ、やるよ。」

 美晴が言い、鬼の名前が書いてある紙を鬼門の方向に置き念じる。時刻は黄昏時。そして何かあるといけないからという理由で屋外で、琥珀川と琥珀川の式達も一緒に、という事になった。ちなみ、桃香と部長は琥珀川が引いた結界の中で美晴達の様子を見ている。ちなみのちなみに桜狐は美晴の家で留守番だ。

「来たぞ、鬼だ」

 琥珀川の声が聞こえた。美晴が目を開けるとそこには、ぼろぼろに破れた巫女服を着てボサボサの長い髪の痩せこけ、額に角を二本生やした鬼がいた。

「鬼女、ですね」

 添が呟く。そしてその鬼が一歩足を踏み出した時、鬼がいる地面が青白く光った。

「うぎぃ」

 鬼が苦しむ声が聞こえる。そしてその鬼が段々と大きくなっていく事に気がついた。

「どうやら相当力の強い鬼のようだな」

 白蘭が言う

「琥珀川!どうしたらいい!」

 美晴が琥珀川に尋ねる。

「塩を撒け!その鬼に向かって!そして塩を撒いている時は『祓え給え、清め給え』と叫べ!あと優馬、お前は豆を撒け!」

 と言った。そして、美晴と優馬はその通りに豆と塩を撒いた、が効かない。効いている様子がないのだ。苦しむ素振りも見せなければ嫌がる素振りも見せない。その鬼はただただ結界から逃れようとして唸りながら身体を大きく肥大化させているようにしか見えなかった。『やっぱり鬼に豆なんて効かないのか』と優馬は思う。すると美晴が

「諦めないで!優馬!」

 と叫んだ。

「コンナモノ……キカナイゾ」

 鬼が言い咆哮ほうこうを発する。そしてその咆哮を鬼が発した瞬間、鬼の動きを封じていた結界が破れた。

 「クソ、結界が破れた!」

  琥珀川が言う。

「どうするの琥珀川!」

 美晴が叫ぶ。

「塩と豆を撒き続けろ。目に見える反応がないだけで確実に鬼には効いているはずだ」

 ここで美晴は気付いてしまった。塩がもう無い。あと少ししか無いのだ。『やばい。どうする』そんな事を考えていると優馬が叫んだ。

「琥珀川さん!豆がもう、無い!」

 これに便乗して美晴も訴える。

「琥珀川!私ももう残り少なくなってきたんだけど!」

 そして琥珀川から帰ってきた答えは

「じゃあいい。俺の後ろに回れ」

  だった。

 『後ろに回れって、一体何をする気』と思いながらも美晴と優馬は琥珀川の後ろに回った。

「華、はやりダメだった。前に言ったとうりだ、出来るか?」

 どうやら琥珀川はあらかじめこうなる事を予想して華に何か伝えておいたらしい。

「はい。出来ます。琥珀川様」

 華が言う。それを聞いた琥珀川華に『よし、では行ってこい』と言って華をこの場から離脱させる。

「添。いくぞ。」

 と言って琥珀川が添を呼び寄せる。そして添が琥珀川の隣りに並んだのを確認すると琥珀川と添は同時に鬼に向かって走り出した。『一体何をする気なんだ』美晴はそう思った。いや、優馬や桃香、部長もそう思っていただろう。

 あれっと美晴が気付く、琥珀川が今持っているのは日本刀だ。だが、一体いつ日本刀なんて持ってきたのだろうか。この鬼退治における琥珀川の役目は鬼の結界と桃香と部長の周りに張ってある結界の管理、琥珀川は今まで笏を持っていたはずだ。などと考えていると白蘭が妙にのんびりとした口調で言った。

「あれはな、笏が剣に変わったのだ。」

 『笏が剣に、どういうことだ。』と思っていると

「琥珀川様が持っている笏や扇子などは皆、時には武器に変わるのだ。琥珀川様いわく、使い勝手が良いらしい」

 と、白蘭が教えてくれた。

「そんなことより、琥珀川と添に加勢しなくて良いの?」

 と言うと白蘭は『いいんだ。多分な』と言って笑みを浮かべた。

「そんなことよりあれを見よ」

 と言って白蘭が指差す方向を見ると琥珀川と添が今にも鬼に斬りかかろうとしていた。『やった。これで終わる』と思ったのも束の間、鬼の後ろ側からどんどん辺りが暗くなっていった。

「なに」

 鈴と白蘭がほぼ同時に警戒する。暗がりが美晴達の辺りまで来て分かった。これはただ暗くなってるんじゃ無い。闇に侵食されているんだ、と。その時、

「美晴せんぱーい」

 桃香の声が聞こえた。

 その時美晴は直感で感じた。『ダメだ。桃香をこの闇の中に入れてはいけない』と。

「桃香来ないで!」

 美晴が叫ぶ。だが桃香の足は止まらない。

「人の子よ!こちらへくるで無い!」

 鈴も叫んだ……が遅かった。桃香が優馬辺りまで来た時、闇が美晴達を包み込んだ。もちろん、優馬と桃香もだ。

「グヘヘへへ」

 気持ち悪い声で鬼が笑う。

「ハイッタ、ハイッタ。ヤミノナカ。モウニゲレナイ」

 そう鬼が言うと鬼が一気に巨大化し、人間の姿を剥ぎ完全なる鬼の姿へと変わった。

「クソ、人型のうちに討伐出来なかった」

 美晴達の元へ戻ってきた琥珀川が言った。

「おい、アレ持ってるか?」

「うん。まだ持ってるよ」

 アレというのは琥珀川が鬼退治の前に『自分のことを鬼が狙ってきたら、どこかに貼れ』と言った。五芒星の真ん中に名前が書いてある身代わり紙の事である。

「私達が鬼を誘き寄せるおびきよせる。だからお前らは、鬼の攻撃を避ける事を第一に考えろ」

 琥珀川が言った。

 そこからは鬼と琥珀川達の攻防戦が始まった。正直言ってとても疲れる。

「華はまだ来ないのか」

 琥珀川が言う。

「ねぇ!琥珀川。これいつまで続くの!もう疲れたんやけど」

 その瞬間、鬼が美晴に狙いを定める。鬼の腕が美晴に向かう。

「美晴さん!危ない!」

 優馬が叫ぶ。鬼が美晴の頭を突き刺した瞬間、美晴の体が光りだす。光りが収まって鬼の手が突き刺していたのは木だった。

「私がどうかした?」

 振り向くと美晴がいた。その顔には『やってやったぜ』と言う顔が浮かんでいた。

「えぇっと、この美晴さんは本物ですか?」

 と優馬が言うと美晴は苦笑して

「なに言ってるのよ。こっちの美晴は本物やで」

 と言った。

「だれか~助けてください~」

 桃香の声が聞こえる。桃香の方を振り向くと桃香が鬼に追われていた。

「桃香!」

 美晴が叫ぶ。桃香に身代わり紙は無い。

「人の子よ。こちらへ来い」

 鈴が言う。桃香はそれに従い鈴の方へ行こうとしたが、途中で転んでしまった。

「オマエ、シネ、シネ」

 鬼が言い腕を振りかざす。

 『やばい死ぬ』と思って桃香は反射的に目を瞑る。その瞬間、

「ウギャー」

 鬼が叫んだ。桃香が目を開けるとそこにはお腹に古ぼけた鈴がついている鬼がいた。

「琥珀川様ー。タカツキ者、呼んできたよー」

 声がする方向に目をやるとそこには華ともう二人いた。

「お父さん!蓮!」

 桃香が言う。

 そう、タカツキの者というのは漢字で書くと『高月』の者となる。すなわち、桃香の一族は鬼の監視と保護をしているのだ。

「桃香。今まで我ら一族の使命をことごとく破ってきたお前だが、どうだ、やる気になってくれたか。鬼の保護と監視」

 桃香のお父さんらしき人が言った。それに対して桃香は涙目になりながら

「やる。やりますお父様」

 と言った。

 美晴達を包み込みこんでいた闇が薄くなって、町の風景が見えてきた。

正弘まさひろよ。どうだ、この辺にしてやったらどうなんだ。さすがに桃香がかわいそうだ」

 琥珀川が言う。アレっと美晴は思う。『その言い方だと最初から計画されていた件のような気がする』と。

「ちょ、ちょっと待ってよ!琥珀川さん。その言い方だとなんか前からそう計画されていたような感じの言い方だったけど、一体なんなんですか?」

 桃香が言う。すると、桃香の弟である蓮が

「これはな、お姉ちゃんをきちんとした高月家の一員で、そして次期当主としての自覚と責任を負わせる為に俺とお父さんとで計画した名付けて『お姉ちゃん矯正作戦』やねん。お父さんが俺の元に来て『桃香がきちんと高月家の次期当主としての自覚を全然持ってくれない』って相談しにきたからな。お姉ちゃん、これに懲りたらきちんと高月家の一員である事の自覚と次期当主になる為に鬼の操る稽古をきちんと受ける事。なんも仕事やめてこっちに専念しろとかゆーとるわけちゃうんやからお姉ちゃんでもできるやろ」

 さらに蓮は続ける。

「まぁ、もうこの作戦は終わりや。なんか知らんけど、お姉ちゃんの会社の部長はんとべっぴんな解決役のねーちゃんと琥珀川様巻き込んだらなんかわしらの方が申し訳なくなってきたわ」

 と言った。

 なんか優馬が忘れ去られてる気がするがあえて水を刺さないようにしてあげた。

 解決役とは美晴がやっている人ならざる者が引き起こした怪異を解決するという役目の名前だ。

 

 「なんや。そういうことか」

  と美晴が呟く。今は部長のところへ向かっている。どうやら部長は鬼の咆哮を聞いて腰を抜かしてベンチで休んでいるらしい。

「部長、部長ー」

 美晴が呼びかける。起きた部長が

「んん、寝ていたのか。はっ、どうなった鬼退治は!」

 と聞いてきたのでこれまでの経緯を説明した。

 それを聞いた部長は

「なんだ、そういうことか。それにしても桃香の家がそんな一族だったなんて……あっ、今のは悪い意味ではなくてだな――」

「部長さん、良いんですよ。今後とも、桃香をよろしくお願いします。あぁ、そうだ、この事は口外は禁止でお願いします。我ら一族の活動に支障が出てしまう可能性があるので。美晴さんと優馬さんもそれでお願いしますね」

 桃香のお父さんが言った。

「そうだ、部長、桃香」

 美晴が言う。そして次の美晴の言葉に部長と桃香は冷や汗をかいた。

「忘れてませんよね。報酬のこと」

そして二人ほぼ同時に『ヴっ』と言った。

「やっぱり駄目か。払わなくて」

 と部長が言うと美晴は容赦なく

「駄目です。きちんと報酬は支払ってもらいますよ」

 と言った。

 すると部長が美晴の後ろを見て驚いた顔をする。

「ゆっ、優馬さん!何故あなたがここに」

 そんな事を部長は言った。

『えっ』と美晴は思う。『何故部長が優馬のことを知っているんだ』と。

「えっ、部長。優馬のこと知ってるんですか?ねぇ優馬。優馬って部長に会ったことあるの?」

 そんな事を美晴が言うと部長が

「おい、美晴。優馬さんにそんな口の聞き方はやめなさい。いいかい美晴、桃香も覚えておきなさい。あなた達の目の前にいる優馬さんは我が社の大手取引先の社長さんだぞ」

 と言う。

 そんな事を聞いて『えっ……マジ。んじゃ私は取引先の社長と同居してるってこと』と美晴が思う。

「いや~部長さん。なんでって思うでしょ。俺は今美晴さんとー」

「ーわぁー!ストップストップダメ優馬、それ以上はダメ!」

 美晴が優馬の話を遮る。

「こら!美晴!優馬さんに失礼だ。やめなさい」

 美晴の行動を見て部長が叱る。

 そんな様子を見て、琥珀川と添達は笑った。

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