番外<それはいつもの日常?>美晴と優馬の京都デート⁉︎
『なんでこんなふうになったんだろう』美晴は電車に揺られながらそんなことばかり考えていた。
今美晴の隣にいるのは琥珀川ではなく優馬だ。『これじゃ、周りの人にカップルだと思われても仕方がないよな〜』と美晴は思う。
「美晴さん?美晴さん!」
優馬に呼びかけられ、ふっと自分の世界から抜け出す。
「ふぇ、あぁ……えっっとなに、優馬」
と言うと優馬が困った顔をして
「なにじゃ無いですよ。ボーっとしないでください。で、今日はどこに連れてってくれるんですか?」
優馬が目をキラキラさせながら言う。
「今日はね、伏見稲荷大社周辺に行く。まぁ正確にはちょっと違うんだけど……そのへんだよ。そのへん」
と言う。そんな事を言いながらやはり美晴はなんでこうなったんだろうと思った。
今日はあの鬼退治が終わってから二日後の土曜日、実は昨日、優馬にこんな事を言われたのだ。『美晴さん、明日の土曜日なんか予定あります?無いなら京都案内という名のデートして下さい』と。
『いや……少しは本音を隠せよ』と思ったが、優馬は京都に来たばっかなので『まぁ、普通に京都案内だと思えば良いし』と思い、一応承諾したのだが――やっぱり断っておけばよかったと思った美晴であった。
「ほい、到着」
「どこですか。ここ」
美晴達が来たのはある寺院である。
「ここはね〜、東福寺っていうお寺。ここは秋になると紅葉が綺麗でよく秋ごろに来るんだ〜」
そんな事を優馬に説明する。
「じゃ、優馬。お参りしようか」
と言って優馬を仏殿の中に入れる。
「うわー。すげー」
優馬が目を見張る。そんな事をしていると美晴が
「でしょ。この本尊は十五メートル、両脇の像は七・五メートルあるらしいよ」
と言った。
「あと、ここには
と美晴が言うと優馬は即決で『行きます』と答えた。
「凄い、すごく良いです美晴さん!」
「凄いでしょ〜この砂紋。なんか海を表現してるらしいよ」
と優馬に説明する。美晴は本坊庭園の内、南庭の枯山水庭園に案内した。枯山水庭園では優馬は『凄い』しか言っていなかった。
「次はここ」
と言って美晴はある看板を指差す
「えぇっと、なになに〜。寺田屋、えっ寺田屋!」
そう、次に美晴が連れてきたのは『池田屋事件』や『坂本龍馬襲撃事件』などの、明治維新の重要な舞台になった池田屋である。
「今ここはね。旅館兼史跡博物館になってて、梅の間には弾痕、竹の間の入り口柱には刀痕があるんだって。優馬は歴史好き?……やったら結構行きたかったんやないか」
と美晴が言う。
「いや〜、幕末はやっぱりロマンありますねー」
池田屋から出た優馬はそんな事を言っていた。すると美晴が
「んじゃ、優馬。次が今日の最後、伏見稲荷大社に行って山登りと途中にあるお茶屋でお昼食べよ」
と言った。
「やっぱり迫力あるな〜。伏見稲荷大社は」
優馬は伏見稲荷大社の
「でしょ、じゃ優馬。お詣りしてお山登りするよ〜」
と美晴が言った。この時は美晴達もこんなにお山登りが疲れるなんて思ってもいなかった。
「はぁはぁ……優馬、ここぉ……ここでお昼食べよう」
そう言って美晴は稲荷山の三の辻辺りにある三玉亭というお茶屋に案内する。
そして席について出された水を飲んで美晴が一言
「ぷはー、生き返る〜。さて、優馬。なに頼む?」
「そもそもここは何がおすすめなんですか?」
と優馬に問われ美晴は『知らない。そこまで調べてない』と答えた。
「はぁ、まったく。少しは調べましょうよ」
「あぁ、案内されてる分際で良く言えるね〜」
そんな事を言いながら美晴は窓から見える風景を眺めた。
「すいません」
優馬が店員の呼ぶ、『はーい』と言う声が聞こえる。美晴は『なんか聞いたことのある声だな』と思っていた。するとその店員が出てきて美晴の顔を見るなり一言
「はーいお待たせしました……えっ!美晴ちゃん!」
と言う。そして美晴もその店員の顔を見て一言
「えっ、
と言った。
そう、美晴とこの高松という店員は知人なのだ。優馬はそんなことも知らずキョトンとしている。
「え、どうしてここにって、それは……バイトよバイト」
「バイトゆーたって、あっ、
千智とは、高松の娘で美晴の同級生だ。連絡先は知っているもののこの頃最近忙しくなかなか連絡出来ないでいたのだ。
「あぁ、千智ねぇ」
その表情は明らかに曇っていた。
「実はね……美晴ちゃん。この頃最近千智は引きこもりがちなんだよね。一様お医者さんからはうつ病で言われてん、働き過ぎとか会社でのストレスが原因だとかって言われたんやけど……」
その言葉に美晴は言葉を失った、『まさかあんなに元気だった千智が鬱とは』と。その時、
「えぇっと……注文していいですか?」
優馬が口を開く。そして美晴と高松は、はっと自我を取り戻す。
「あっ、ごめん。優馬。ないがしろにしちゃって」
「お客様、この度は大変申し訳ございません。では改めて、ご注文をお伺いします」
美晴達が謝罪する。
「んじゃ、いなり寿司とみたらし団子ください」
と優馬が言うと高松が
「はい。かしこまいりました。美晴ちゃんは?」
と聞いてきたので、優馬と同じ物を注文した。
「ねぇ、琥珀川、白蘭」
美晴が口を開く。
「朝からずっと気になってたんだけどさぁ。なんであんた達ずっと手握ってるのよ」
そう、実は琥珀川と白蘭は朝からずっと美晴達の後ろにいたのである。ずっと手を握って。
そうな事を言うと白蘭が
「あら、美晴さま、駄目ですか?手、握っちゃ」
と言ってきた。『いや……まぁ、駄目な訳ないけど……なんか腹立つ』と美晴が言う。そのうち注文した物が運ばれてくる。
「はい。いなり寿司とみたらし団子」
そんな事を言って運び終えると高松が美晴の事をニヤニヤ見てきた。美晴が『どうしたの』と聞くと高松は
「いや、ついに美晴ちゃんにも彼氏が出来たんだなって思うとなんか嬉しくて」
と言ってきた。美晴は慌てて
「違います。彼氏じゃありません。ただの同居人です」
と言った。――美晴はその言葉を言った瞬間、ひどく後悔した。『その言い方じゃあもっと大きな誤解を招く』と。
そんな事は置いといて、三玉亭のいなり寿司とみたらし団子は普通に美味しかった。
「美晴さん、彼氏とか出来た事ないんですね」
食べ終わってゆっくりしていると優馬がそんな事を聞いてきた。美晴はため息を吐き
「なに?優馬も言うの?あのね、言っておくけど彼氏は出来たことあるよ。何人も、ただ……あまり長続きしなかっただけ」
と言った。
「そうなんですね。美晴さん、こんなに美人なのに」
と優馬が言ってきたので美晴は恥ずかしくなった。
それから少しして、美晴達は三玉亭を出て、お山登りを再開したのであった。
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