第10話 激戦
「うらあああああああああ!」
「ルーメン・ラミナ」
プルヴィアが遠距離からアゲルドラコの足首目掛けて光の刃を放った。武威の強烈な一撃を脳天に見舞うためには、先ずは相手の機動力を削がなくてはならない。しかし、アゲルドラコの鱗は強靱で、裂傷は負わせたが切断には程遠い。
続けてアゲルドラコは、鋭利な爪を武威目掛けて振り下ろしたが、武威は即座に横に飛びそれを回避。捻りを加えて鉄塊を振り抜き、側頭部を狙うが、巨体に似合わぬ俊敏さで素早く身を引かれ、空振りに終わった。武威の一撃は鉄塊の重量と大きさを考えれば異常な速さだが、それでもやはり刀や槍の最高速度には劣る。強力な一撃をいかにして命中させるかが勝利の鍵だ。
「武威様。顔を逸らして目を瞑ってください! ルーメン・エピストライ」
隙が無いのなら生み出すまでのこと。身を引いた直後のアゲルドラコの眼前に、プルヴィアが魔術で強烈な閃光を発生させた。直接的な攻撃力は持たぬが、目くらましとして相手を
「これで終いじゃ!」
今なら無防備なアゲルドラコの側頭部を狙える。武威はアゲルドラコ目掛けて高く跳躍、落下の勢いを加算して強烈に鉄塊を振り下ろした。
「武威様、危ない!」
「まだおったのか」
武威目掛けて突如、空飛ぶ魔獣ドレイクが突っ込んで来た。空中では回避しきれず、武威の体はドレイクごと家屋へと落下した。魔獣は全て撃破したと思っていたが、まだ伏兵が潜んでいたようだ。
「武威様、ご無事ですか?」
「無事だべ。すまんな、せっかくプル子が作ってくれた好機を無駄さした」
プルヴィアが倒壊した家屋へ駆けつけると、武威は直ぐに土煙の中から姿を現した。体の数カ所に木片で切り傷が生じているが、大事には至っていない。一緒に突っ込んできたドレイクは撃破され、すでに体が消滅しかけていた。衝突の寸前に武威が咄嗟にドレイクと体の位置を入れ替え、鉄塊を頭部へと押し当てることで、衝突の勢いで潰したのだ。
横槍に時間を取られている間に、
「問題ありません。好機など幾らでも作り直せます」
「そうじゃな。ワも次は外さん」
元から自信家だった武威だけではない。触発されたプルヴィアも自信をつけていた。次は確実に倒せる。
「派手な衝突音が聞こえたな。貴様の仲間、どちらが一人が潰された音ではないか?」
「俺の仲間はそんな軟じゃない。一人は今日出会ったばかりだが、あれは殺しても死なない手合いだろうさ」
村の入り口付近では、
「減らず口を。私もそろそろ我慢の限界だ。そろそろ手足の一本でも貰おうか!」
周彦との鍔迫り合いを解き、距離を取った瞬間、魔術師は周彦目掛けて魔術を発動した。
「フラゴル!」
周彦の目の前に突然、強烈な熱源が発生し爆発した。周彦は寸前でサーベルで薙ぎながら後方へと跳躍し直撃を避ける。爆風は制服を焦がすに留まった。
「馬鹿め、かかったな! ルーメン・スクロぺトゥム」
爆発を避けられるのは想定内。魔術師の狙いは周彦と距離を取り、一方的に
「ははははははっ! これが魔術による
魔術師の高笑いが止まらない。どんな剣術の達人であろうとも、魔術で遠方から攻撃されればひとたまりもない。攻撃が終わった頃には全身が蜂の巣だ。
「剣術では勝ち目がないと悟るや否や魔術へと移行か。合理的だが鼻につく」
「何?」
光の銃弾を打ち尽くした直後、土煙の中から周彦の
「き、貴様、何故生きている?」
死者を愚弄し、意のままに操って来た魔術師が、死人でも見たように青ざめている。あれだけの光の銃弾の中で人の形を留めて、ましてや生存しているはずがない。
「直撃しそうな攻撃だけを全てサーベルで叩き落とした。
魔獣は例外なくその身に魔力を有する性質を持ち、それがそのまま肉体の強靱さにも繋がっている。対する讐満帯刀素材は魔力の影響を受けない性質を持っており、それを武器に転用することで魔獣への攻撃を可能としている。
即ちこの性質は、魔力によって発動される魔術に対しても効果を持ち、讐満帯刀素材は対魔術師戦においても有効だ。尤も、魔術の発動は一瞬であり、常人が簡単に反応出来るものではない。讐満帯刀素材が魔術に有効だからといって、それを使いこなせるかどうかはまた別の話である。
「だとしても、あれだけの銃撃をサーベル一本で捌き切ったというのか。そんなことが出来るはずが!」
「貴様の言う通り俺は剣術しか使えない。だからこそ、剣一本あればこれぐらいのことは出来る」
動揺が反応を鈍らせ、魔術師はいつの間にか周彦に背後を取られていた。魔術を使うかサーベルを使うかの判断が遅れ、咄嗟に身を引いたが、周彦の一撃はサーベルを握る魔術師の右腕を捉え、肘上から切り飛ばした。
「があああああああああっ! 腕が、私の腕が!」
激痛に絶叫し、魔術師は切断面を抑えながらその場に膝をついた。その姿を周彦が無感動に見下ろす。
「剣術と魔術、結局どっちつかずだったのが貴様の敗因だ。今の一撃もどちらかに自信を持っていれば、あるいは対処出来たかもしれないな」
「くそっ! まだ終わらん! 私が貴様のような下等――」
立ち上がり、距離を取ろうとした瞬間、周彦の振るった刃が魔術師の首へと食い込み、そのまま真っ直ぐに両断して抜けた。御託を最後まで聞く義理はないし、悪戯に痛めつけようとも思わない。一人の剣士として、例えどんな相手であろうとも、終わらせる時は一瞬で終わらせてやることを、周彦は信条としている。
「日本の警察官を舐めるなよ」
魔術師の返り血を弧を描くように血払いし、周彦はサーベルを鞘へと納めた。
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