第14話・参歩の経歴

 インデックスの【3Ⅾスポーツ大会】が終わった日の夜、帰宅した土手川家は振り返り雑談配信の準備をしていた。


 再婚の報告をした時と同じどこかのカフェの店内の画像を背景に3人の2Ⅾアバターが並んで配信を始める。


「はいどうも皆さんこんばんは! インデックスの名探偵! 土手川 参歩だ!」


 参歩の挨拶から始まってリーシャが続く。


「こんばんは、その嫁の土手川 リーシャです!」


 最後にエメリオが「娘のエメリオでーす」と軽く挨拶を済ませると、参歩が本題に入った。


「インデックス3Ⅾスポーツ大会! お疲れ様でした!」


 すると、チャット欄でも「お疲れ様です!」「大健闘でしたね!」などの労りのコメントが流れる。


参歩「2人3脚のあとの種目も大変だったけど、最終的に200対220で青チームが勝ちました」


リーシャ「団体戦のドッジボールは特に白熱したわね」


参歩「明日は確実に筋肉痛で動けないぞ」


エメリオ「明日の夕ご飯はあたしが作るよ!」


参歩「カレー以外にしてくれると助かるかな?」


エメリオ「じゃあカツカレーでいいね!」


参歩・リーシャ「「人の話聞いてた?」」


エメリオ「アッハイ、鶏肉安かったら親子丼で最悪チャーハン作ります」


チャット欄「打ち合わせしてたんじゃないかってぐらいのハモリで草」「エメリオちゃん料理できるんだ」


参歩「エメリオも3Ⅾ化したら出場できるからな」


エメリオ「インデックスだと3Ⅾ化するための条件って確か‥‥‥」


リーシャ「チャンネルの収益化と登録者数50万人以上で3Ⅾ化される。アナタの場合だとまだ先の話かもしれないけどね」


 ちなみに現在の土手川家のチャンネル別の登録者数はこうなっている。


エメリオ・600人


リーシャ・51万6千人


参歩・150万人


リーシャ「確かインデックスで一番最初に3Ⅾ化されたのってアナタだったわね」


参歩「そうだな。まあ、俺の場合はインデックスに入る前から既に50万人超えていたからな」


エメリオ「そのことで前から気になっていたことがあったんだけどいい?」


参歩「どうした?」


エメリオ「お父さんって実況者としてのキャリアってどういったモノなの? 今まで話してくれなかったよね?」


参歩「うーん‥‥‥そうだな。これを話したお前が学校行くのやめるんじゃないかと黙っていたが、もう通信制に変えたからな。話しておこう」


エメリオ「それが理由だったの?」


参歩「言っておくがお父さんは高卒で社会人をしながら配信者をしていた。社会を知るためにはキチンと社会に出て働くことで学べる。お前もちゃんと高卒で就職しろよ? 最低でもひとつの会社に3年は勤務しろ。リーシャみたいにイラストレーターとかの仕事に就くなら話は別だが‥‥‥」


チャット欄「割とガチで娘の進路気にしてた」「というかエメリオちゃん通信制の学校に変えてたんだ」


参歩「でだ‥‥‥俺の配信者としてのキャリアなんだが、17歳の時にチャンネルを立ち上げた。最初についてくれたリスナーは俺の書いたネット小説を読んでくれていた読者たちで、チャンネル開設から半年で登録者数は100人程度‥‥‥それから続けていく内に18歳になる頃には10万人になっていた。事務所からスカウト受けて収益化に至り、その金で機材を新調して高画質動画を提供できるようになってさらにその数は増えていった」


エメリオ「お父さんって高校生のころから自分でチャンネル立ち上げていたの!?」


参歩「まあな、とはいえ当時はⅤじゃなかった。そして、高校を卒業した俺は、副業のできる定時勤務の工場の作業員の仕事に就いた。仕事を覚えるまでは活動を控えることになったが、少しでも早く覚える努力をした甲斐もあって1年後には本格的な活動に戻れたな」


エメリオ「働きながら配信活動って大変じゃないの? 10万人いれば仕事に就く必要ないと思うけど‥‥‥」


参歩「仕事の内容にもよるが、慣れればそうでもない。それに就職したのは社会を学ぶためだ。まあ、そんな生活2年以上続けて、二十歳を迎えて成人式を終えて初めて迎えた梅雨の時期のこと‥‥‥グリモアアーカイブの社長直々に【インデックス】へのスカウトの連絡が着た。当時から既に音楽会社のⅤの人と交流があったせいか? リスナーたちからも「参歩さんはⅤになったりしないんですか?」っていうコメントを見かけるようになっていたから、思い切って移籍した」


エメリオ「その時点でもう50万人超えてたの?」


参歩「そうでなければそんな移籍話を引き受けはしなかった。この仕事は見てくれる人の数で給料が変わるからな。仮にそこまで有名なチャンネルでなければその話は受けなかった。そこからはまあ、お前の知っている通りだ。自分の人生‥‥‥よく考えて決めろ。考える時間ならまだ数年は残ってる」

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