034.幕間1.5
私の通う学校は、何の特色もない普通の学校だ。
偏差値も進学率も平均的の進学校と自称しているらしい普通の学校。
一応女子校ではあるものの制服が可愛い事以外は特に言うことはない。
むしろ下手にいいところの学校に行くよりもこういうところのほうが気が楽。だからネット活動もできるわけだし。
「ねぇねぇ! 聞きました?黒松さん!」
「……なにかしら?」
始業までの微妙な時間、教室で一人本を読んでいると正面で立ち止まった子が私に話しかけてきた。
顔を上げればクラスメイトの女の子が目を輝かせながら覗き込んできている。
「今日、転入生がクラスにやって来るんですって!」
「……へぇ」
「職員室で見た子によればすっごくちっちゃ可愛いらしいんですよ!「本当に高校生?」って感じでその子も二度見したくらいで!」
楽しそうに語る様は又聞きの情報だと言うのにえらく具体的で、楽しそうだった。
ちっちゃ可愛い……ねぇ。
脳裏に思い浮かぶのは昨日一昨日と出会った瑞希ちゃんのこと。
そういえばあの子も同い年で、家も隣だったわ。
まさか……ね。さすがにそれはナイでしょ。
だって瑞希ちゃんはあの人の幼馴染で一緒に住んでる。
いつから一緒かは聞きそこねたけど、まさか昨日一昨日で来た話でも無いでしょう。
だから、あの子はどこか別の学校の生徒なんだ。こんな辺境の地で再会するなんて無いんだ。
「それではみなさんもご存知と思いますが、今日このクラスに新しく加わる生徒を紹介します!!」
いつの間にか鳴っていたチャイム。いつの間にかやってきていた先生の言葉に、クラス中が大きく沸き立つ。
先生の合図にゆっくりと扉が開き、その小さな身体が姿を表した。
中学……下手すれば小学に見えるほど小さな背丈、少し色素の薄い黒髪をストレートに垂らして毛先を跳ねさせた髪型。
そして起伏の出にくいウチの制服を僅かながらでも押し上げ、見るものが見ればわかるその胸部の大きさを示した少女。
それはやはりと言うべきかまさかと言うべきか、先日も会った瑞希ちゃんの姿であった――――。
「瑞希ちゃん、一緒に御飯食べない?」
「ぇっ……? ぁっ…………」
昼休み。
私は手ずから作ったお弁当を片手に彼女の元へとやってきていた。
朝からお昼まで、授業と興味津々の
さっきまで使っていた教科書を片付けていた彼女は私を見上げて、その半開きになっていた瞳が軽く見開く。
それはなんだか眠い……というより落ち込んでいるような、そんな暗い影。
アレ……?この子、こんな表情だったっけ……?
「てでぃ……美汐……ちゃん?」
「えぇ。 驚いたわ一緒のクラスだなんて。 ……大丈夫?なんだか様子がおかしいけど」
彼女は先の自己紹介といい休み時間でのクラスメイトとの交流といい、いかにもな暗い女の子という印象を受けた。
明らかに休日の様子とは180度違う雰囲気。あの時のハツラツな様子なんてどこにもない。昨日別れてからの10時間ほどであの人と本気で喧嘩をしたか、もっと大変なことが起こったか。
しかし隣から聞こえる限りは怒鳴り声なんて一切聞こえなかった。防音室にいる時は定かではないが、2人がそんな大喧嘩をするとは思えない。
「あはは……ごめんね。 あたしにとってはこっちも普通なんだ……」
「普通…………?」
「なんだか、お兄ちゃんがいないと全然元気が湧いて来なくって……。さっきもね、お兄ちゃんに会いたいな~って思ってたらいつの間にか授業が終わって美汐ちゃんが来ちゃって」
ちょっと、授業くらいちゃんと受けなさいよ。
なんてちょっとしたツッコミも心の中に留めつつ考える。
昨日のような元気がないのはお兄ちゃんがいないから。でも、この変貌は変わりすぎだ。
多少テンション低めなのは外面と内ということで十分理解ができる。でもこれはもはや人格が違うレベル。
何事かと深堀りしようともしたが、まだ出会って3日。いくら憧れられてると言ってもそういったことはまだまだ早すぎるだろう。
なら…………。
「そっか……。ねぇ瑞希ちゃん、今日は食堂?」
「えっ……うん。 先生から食堂もあるって聞いたから……」
「なら一緒に食べに行かない? 私はお弁当だけど向こうで食べるし」
「……いいの?」
「えぇ。 ほら、早くしないと列がどんどん伸びちゃうわよっ!」
「えっ……あっ……! もうっ……!?」
私は役割を変更するように、彼女の手を引いて食堂までの道を駆けて行く。
性格が変わったと言ってもこの子は瑞希ちゃん、大切なお友達だ。
きっと学校に慣れたらまた変わって来ることだろう。それまでは私が引っ張って、時にはあの人に近づけてエネルギーを充電させたっていい。
私はいつも以上にテンションを上げて、先日のこの子のように学校生活を楽しんでもらおうと走っていった。
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―――――――
私は1週間、妹分・兄貴分と評する2人の為と私自身の為、色々と暗躍をしていた。
瑞希ちゃんと計画を立ててあの人を借り、その上で一緒に寝る用仕向けたり、私の実利も兼ねてカフェ友に誘いながら彼と彼女の緩衝材になろうと動いたり。
これから色々と、私と私の友達の為に動こうとしていたその時だった。
あの日が訪れたのは。
それは瑞希ちゃんらと出会って1週間ほど経った土曜日。
私は彼を連れ出し、自分の趣味も兼ねて喫茶店へと足を運んだ。
目的は学校での彼女の様子を知っているか聞こうということと、彼について私がもっと知りたかったから。
この1週間、ずっとこの感情について考えていたがついぞ突き止めることができなかった。
彼と話したい。色々なことを知りたい。でも私の恥ずかしいところは知られたくない。そんな謎の感情と戦いながら正体を探ろうと試行錯誤し、今日こそその正体を突き止めようとした矢先、アレが起こってしまった。
それはファンとの、過剰な交流――――。
初対面時の瑞希ちゃんらと普通に話せたし、問題ないと思っていた私の悪癖が運悪く出てしまったのだ。
私は極度の人見知りである。知らない人相手にはどうしてもパニックになり、うまく言葉を発することができなくなる。
知らなくても店員さんのような上辺の対応とかネットを介せば全く問題ないのだが、こうして1対1で顔を突き合わせて感情をぶつけられるとなると、どうしても心臓が高鳴って口がうまく動かなくなってしまう。
そんな時、彼が助けてくれたのだ。
不格好でもグダグダになっても、彼は私を助けてくれた。パニックに陥っている私を救ってくれた。
それを目にした時、今まで抱いていた私の感情がとある言葉と合致してしまったのだ。
その正体を口に出すのは恥ずかしくてためらわれるが、これで間違いない。何故気づかなかったのかと先週の私を小1時間ほど問い詰めたい。
感情に任せて出た言葉。そして、一歩でも瑞希ちゃんへと近づくため、彼に近づくため発したこの言葉。
「私と付き合ってくれない? もちろん、ニセモノじゃなくて本当の彼氏彼女として」
それからのことは記憶も感情もグチャグチャだが、最後の最後で天に登るほど嬉しかったのを覚えている。
傍から見れば友人を裏切ってしまうような行為。しかし私には、それでもなお、瑞希ちゃんと彼、そして私の為に押し通さねばならない行為でもあった――――
仕事を終えて家に帰ると、田舎に残した幼馴染がJKとなって出迎えてくれました 春野 安芸 @haruno_aki
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