友 ①

 クリムはそこでスピア達と別れ、いつもの面子で旧友のいる所へ向かう。近付くにつれ、周りにいる者達が慌てふためいた様子で次々と跪き始める。


 友のヴィージュはというと最後まで取り残される形となり、首を右往左往させてどうしたらよいのか分からない様子で、クリムはそんな彼を可笑しく思いながら、こんな風に声を掛けていた。


「久しぶり。いつこっちに来たんだよ」

「あ、ああ……、最近だよ最近。元気してたか?」


 あっははーなんて引きつった笑みを見せる友に、ヴィージュさんと声が飛ぶ。

 嗜めるように言ったのは、隣にいたハチワレ模様の三毛の子だ。毛に混じった純白が目を引く。


 薄くではあるが、貴族の血が混じっているようだ。

 そんな子がどうしてこんな所に……?

 そう思いこそすれ、詮索する気はなく、ひとまずその疑問を脇へと押しやって、クリムは片腕を広げて見せた。


「紹介するよ。訳あって妹探しの旅に同行しているベリーと、フォレストサイドって町から勝手についてきたプチィだ」

「将来の一番弟子だ。覚えとけ!」


 お前まだ言うかと、呆れよりも笑いがこみ上げてきて、クリムは笑う。直後にヴィージュが頭を掻き始め、おずおずといった感じで尋ねてきた。

 

「いや、そのよ。色々言いてぇことはあんだけど……、マジ?」


 しかし、それでは分からず、クリムは首を捻って返した。


「何が?」

「いやいや、分かんだろうが……。お前が砂の国の王子だったって話だよ!」


 ああ、そのことかと理解すると同時、三毛の子がヴィージュの服の裾を掴んでくいくいと引っ張っているのが目に入る。それでクリムは、ふと悪戯を思いついた。


「なぁ、ヴィージュ。お前大した口の利き方だな? 王族相手にそんな態度を取ったらどうなるか、知ってるか?」


 クリムが悪い顔でそう言うと、ヴィージュは頬を引きつらせ、青い顔をする。クリムはしめしめと思いながら、ネコグリフから降りてヴィージュの傍まで歩み寄る。

 

「貴様を死刑に処す」


 そして、そう言うや否や、肩に腕を回して胸板をバシバシと叩いていた。


「冗談だよ冗談! 尻叩き百回で勘弁してやるよ。お前のケツなんざ叩きたくもないけど」

「ぼへっ、て、てめぇっ、ふざけてんじゃねぇ! おまえ俺はマジで……」


 胸に手をあて、心底安堵した顔でヴィージュは言った。


「死ぬかと思った」

「悪い悪い。君がそんな小心者だったなんて知らなかったんだよ」

「うるせえ! 王族って聞きゃ誰でもそうなんだろ。違うか?」

「ああ、わかったわかった。とりあえず中に入らせてくれ。こっちは色々あってさ、精神的にへろへろなんだ」

「俺らの方がへろへろだっての。毎日クソどもと遣り合ってんだぞ? でもまぁ何とか、雌神めがみへの愛で持ちこたえてる感じだ」

「そうか、そいつは良かったな」


 クリムが小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、ヴィージュの肩をぽんぽんと叩くと、「流すんじゃねぇ!」と、ヴィージュは憤りをぶつけた。しかし、直後にふと思い出したような顔をして、彼に言う。


「あ、そういやスカイの旦那もこっち来てるぜ」


 うげぇ、とクリムは露骨に嫌な顔をする。新進気鋭の若手の貴族、金の穂を実らす猫じゃらしが広がる都に居を構え、『猫じゃらし伯爵』なんて呼ばれていたりするスカイドロップ・サンセット。訳あって苦手な相手なのだ。


 テントの中へと消えていく二匹の後ろでは、三毛の子が「あ、どうぞ」とベリーとプチィにも声を掛けており、ナッツまで入ってきて慌てて止めにはいっていた。


「わっ、ちょっと! 君はダメだって――――え?」


 しかし、頭からかぶりつかれてぶんぶんと振り回され、「わぁああああ!!」と悲鳴をこだまさせていた。


「おいおい、なんつー凶暴な奴だ……。まさかこいつ、野生のか?」


 その言葉にクリムは頷きを返した。


「当たり、この子の言うことしかきかないんだ」


 そして、プチィに目を向けると、「ナッツ、放してやんな」と声を掛けられたナッツが吐き出していたが、可哀想なことに全身よだれでべとべとだ。


 そのうえ意識も失っているようで、「おい、マロン。無事か?」とヴィージュが顔を覗き込み、頬を打っているが、反応はない。


「悪い。目を覚ましたら謝罪しておくから、それより現状を教えてくれ」


 クリムは、そう伝えるとどかっとその場に座り込む。

 ヴィージュは、「あ、ああ」と返事をして前にくる。そして同じように腰を下ろすと、現状を彼に話し始めた。

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